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Préface~序章
ロココ調の長い廊下の天井を眺める。
扉が開いたら私はバラのような微笑を浮かべ、小鳥のように笑い、蝶のように殿方の間をすり抜ける。
大丈夫上手くやれる。
ノアはそう祈るように思いながら小さく息を吐き出した。
「伯爵様がお待ちです」
「すぐに」
背筋を伸ばしドレスの裾を直してピンと背筋を伸ばす。
ドアが開いて、まっすぐ正面。伯爵であり、主人であるルイが鎮座しているだろう。
ルイだけを見て歌えば大丈夫。
そう自己暗示をかけるように目を閉じ、待った。
ドアの隙間からは吟遊詩人の愛の歌が聞こえる。この歌が終わり拍手が止んだら出ていくのだ。
「まあまあ。ふふふ……ノア様のほうがお上手だわ」
侍女のスーザンがクスっと笑う。
「し、聞こえてしまう。あの吟遊詩人の彼はご婦人方の目の保養……歌は二の次なのは知っているでしょう?」
「ノア様ったら」
そういいながらも笑いをこらえるスーザンを見てノアは緊張がとけた様子で微笑んだ。
空のように青い、袖ありのエンパイアドレスはノアの長い手足を引き立たせていた。
同じデザインのドレスがこの色の他に、日溜まりのような柔らかな黄色と、桜の花びらのような優しいピンク、新緑のような緑、バラを写し取ったような赤の布で作られた。
同じデザインでも布地や色で全く違う表情を見せるドレスに魅了された。
パーティーの支度にとりかかろうとしているところにやって来たルイが、空色のドレスをチョイスしたのだ。
髪に庭の白と薄いピンクのバラで作った花冠をのせたスタイルは少女のように可憐で、しゅっと伸びた首筋は天使のように清らかで悪魔のように妖艶に見える。
ごてごてと着飾り髪を巻いた貴婦人たちの誰よりも美しく艶やかろう。
吟遊詩人の余興が終わり、一呼吸、二呼吸とおいてドアが左右に開いた。
みんなの視線がこちらに向く、言い様のない圧にしびれを感じる。
そして広間を見下す階段の上で正面に座る愛しい人に微笑んだ。
漆黒の髪と瞳は夜の神のようだとノアは思った。
深く自愛にあふれる瞳を見ていると心が安らいだ。
「悪くない」
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