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1.
「新矢ァ、ほらほら、ほんとはあたしに第二ボタンくださいって言われたいんでしょ? 予約してやろっか?」
「はっ?」
つんつんと二の腕をつついてニヤニヤと誘惑するように煽ってくる女子・光森唯奈に、新矢覚はたじろいだ。
今は卒業シーズン。この中学でも御多分に漏れず、第二ボタンにまつわるそわそわがにわかに繰り広げられていた。
彼女いない歴=年齢。告白された経験もなし。この度の中学卒業において第二ボタンの要求、一切なし。
そんな新矢に降って湧いた椿事。第二ボタンというワードを叩きこまれるだけでも稀有な事象なのである。
だがしかし。
新矢は顔をしかめながらも悪態をつく以外に、その場を取り繕う術がなかった。
「はあ? 誰がてめーみてぇなゴリラになんか……。あげるわけねーし!」
事もあろうか女子相手にゴリラなどと宣い、その場を凌がなければならないのには理由がある。
言われた場所が耳目の集まる教室であったこと、それを口にした人物が本気度皆無の笑顔を浮かべ、明らかに冗談であると推察されること、その人物が光森唯奈であること。以上の三つである。
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