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 光森唯奈と新矢覚。この二人は、幼馴染にして腐れ縁である。  二人の関係は小学生の頃から中学三年の今まで続き、もはや学校公認のケンカップルと見なされている。  気の強い唯奈は運動神経抜群のスポーツ系女子で、小柄ながら活発でスタイルもよく男女分け隔てなく人気者ではあるのだが、男顔負けの膂力(りょりょく)を持つまさにゴリラ女子。その要素を、彼女を恋愛事から遠ざけている。  一方の新矢も運動には自信があり、球技大会などでも華々しい活躍を見せ、唯奈と負けず劣らずのスポーツ人間。運動一筋であるが故に、恋愛事をチャラいとみなしているきらいがある。  告る告られるだののキャッキャウフフに興味のない(てい)を周囲に露呈している二人ではあるが、この卒業を控えた独特のテンションには抗えず、流行に便乗せざるを得なかった。  それによる、冒頭の唯奈の冷やかしからの新矢のゴリラ発言への流れ。  ゴリラ呼ばわりからの唯奈の鉄槌。からの小学生レベルの口論。通常運転である。  しかし──。  互いにいがみ合って素直になれない二人だが、本心はまるで違った。  唯奈は、まんまと逃亡を図った新矢の後ろ姿を見送りながら思った。 (あーもうバカバカ! 何で素直に第二ボタンくださいって言えないの、卒業式で告るって決めてんのに!)  一方、さっさと昇降口へ向かう新矢は思った。 (何があげねーしだ、バカか俺! あげてぇ! 唯奈にボタンあげてぇ! でも自分からあげるのも変だし)  さらに唯奈は、紅潮した頬を両手で覆いながら思う。 (てか、あんな言い方したら本気で受け止めてくれるわけないじゃん! バカバカ! ほんとあたしバカ! ──まぁ、あれだけ騒げば周りへの牽制にはなった……? ま、あいつのボタン欲しがる子が他にいたらの話だけど)  唯奈は意外と策士だった。  一方の新矢も、靴箱の前で靴を叩きつけながら思う。 (あーもう! くそ! あんな様子だと本気でボタン欲しがってるわけじゃなさそうなんだよなぁ。ダメだ……。卒業式に告ろうと思ってたのに……)  新矢はこう見えてヘタレだった。  かくして、この二人による第二ボタン事変の開幕である。
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