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僕は、本を閉じて、ため息をついた。
顔を上げて驚いた。
いつの間にか、僕の前に征一郎が座っていて、僕のことをじっと見つめていた。僕は、知らない内に、彼に 見つめられていたことを思って、赤面してしまった。
「な、なんで、お前がここにいるんだ?」
「酷いな」
征一郎が、ふっと笑って言った。
「お前に会いたくて。ずっと、探していた。話したくて」
「もう、話すことなんて、ない」
僕が、そう言うと、征一郎が頷いた。
「同感だ。我々の間には、もう、話すことなんてない。後は」
僕を見つめる征一郎の瞳が赤く変化していく。僕は、その瞳に魅入られたように、身動きがとれなくなった。息苦しくて、たまらない。僕は、ネクタイを緩めた。背中を汗が伝い落ちていくのが、わかった。
征一郎が囁いた。
「お前を抱くだけだ」
不意に、目の前が暗くなった。
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