6 憂鬱な花嫁と魔王の告白

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僕は、本を閉じて、ため息をついた。 顔を上げて驚いた。 いつの間にか、僕の前に征一郎が座っていて、僕のことをじっと見つめていた。僕は、知らない内に、彼に 見つめられていたことを思って、赤面してしまった。 「な、なんで、お前がここにいるんだ?」 「酷いな」 征一郎が、ふっと笑って言った。 「お前に会いたくて。ずっと、探していた。話したくて」 「もう、話すことなんて、ない」 僕が、そう言うと、征一郎が頷いた。 「同感だ。我々の間には、もう、話すことなんてない。後は」 僕を見つめる征一郎の瞳が赤く変化していく。僕は、その瞳に魅入られたように、身動きがとれなくなった。息苦しくて、たまらない。僕は、ネクタイを緩めた。背中を汗が伝い落ちていくのが、わかった。 征一郎が囁いた。 「お前を抱くだけだ」 不意に、目の前が暗くなった。
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