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数十分後。
公園で待つ圭介の元に、桜庭が食事を持ってきた。
コンコン。
「高梨さぁん!ご希望のハンバーグお持ちしましたよ!」
「あ、桜庭さん、ありがとうございます。」
「左側の壁に付いている緑色のボタンわかります?押してください。」
圭介は言われるがまま、左側に視線を向け、緑色のボタンを見つけるとポチッと押した。
すると、左側の腰から下くらいの高さに切れ目が入り、壁が外側にずれるとウィーンという音とともに持ち上がった。
すると、桜庭がひょっこり顔を覗かせた。圭介は立ったままの姿勢で、顔を左下に向けた。
「直接お会いするのは数時間ぶりですね。お疲れ様です。」
桜庭は笑顔で、ハンバーグ弁当を差し出した。
「ありがとうございます。ここが開く仕掛けになっていたなんて。」
「あ、逃げれるとか思っちゃダメですよ!私側で解除しないと緑色のボタン押しても開きませんからね。」
「いや、逃げるとか…そんなことは考えてないですよ。」
「ですよね。あ、このまま掃除もしちゃいますね。あとこれ、お身体を拭く衛生シートです。」
桜庭がハンドタオル程のシートを手渡した。
「では、接触は最低限と定められてますので、これで閉めさせてもらいますね。引き続きよろしくお願いいたします。」
桜庭がペコリと頭を下げて立ち上がろうとした。
「桜庭さん、ちょっと待ってください。」
「…どうしました?」
桜庭は再び顔を覗かせた。圭介は桜庭の方を向かずに正面を見つめたまま話を続けた。
「あの、一つだけ教えてください。桜庭さんが国民捕獲官のケースワーカーになったのは、何でですか?」
「…私がケースワーカーになった理由ですか…。何故突然。」
「あ、いや、桜庭さんのことをちゃんと知りたいと思って。見ず知らずの人間に自分の命を預けるなんて、中々できるものじゃない。その若さでこの仕事を敢えて選んだ理由は何でなんですか?」
桜庭は俯いたまま呟くように答えた。
「…私の両親が、警察だったんです。」
「…警察!?」
圭介は、あれほど警察を憎んでいそうな桜庭の両親が警察の人間だったことに驚いた。
「特に父は警察組織の崩壊に関わった人間の一人で…、私は私なりに家族の失態の責任を取りたかった。…とりあえず、そんな感じです。もう時間なんで。」
桜庭はそう言うと、圭介の反応を待たずに扉を閉めた。
圭介は暫く沈黙した。
桜庭はそのまま、ライトボックスの背後に回り、排出ボックスを引き出し、排出物が溜まった袋を管から外し、新しい袋を取り付けた。
桜庭は、外した袋を持ってきていた小型のジュラルミンケースに入れ、作業を終えると、ライトボックスの正面に回り、圭介にペコリと頭を下げて立ち去った。
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