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圭介は勝手口の外からカメラ越しに邑上の様子を覗いていた。
「…おっ、うわぁ、こりゃひでぇ。」
遺体を発見した邑上の声が聞こえた。そして、ハンカチで塞いだまま戻ってきた。
「捕獲官さんよぉ、よくここに住んでたじいさんはあんなものと一緒に住めてたなぁ。」
「…あんなもの?」
圭介の声色が変わった。
「…あぁ、普通の人間ならあんなものと一緒の空間にいら…」
「あんなものじゃないでしょ!大切な家族ですよ!!」
圭介が怒号をあげ、邑上とモニター越しの桜庭は固まった。
「…ちょっと…高梨さん?」
「桜庭さんは黙っててください!邑上刑事、あなたには大切な方はいないんですか?」
圭介は感情を抑えることなく、詰め寄るような口調で聞いた。
「…ふん。説教か?偉そうに。あ、失礼、国民捕獲官様は、法では俺より上だったか。こりゃ失敬。」
邑上はそう言うと、仲間の刑事がいる玄関の方へと向かっていった。
「くぅ~、むかつく~。」
明らかに馬鹿にされた圭介は怒りに震えた。
「…ちょっと高梨さん、感情出さないでって私に言ってませんでしたっけ?」
「…あ、…すみません、つい。」
「とりあえず、ここはあのいけ好かない刑事らに任せて、警察署に向かいましょう。私が今ナビを登録しますから。」
一方、関内に会うために警察署に向かった湯浅と葉山は、葉山が運転する車で向かっていた。
「湯浅係長、一つ伺いたいのですが。」
「何ですか?」
「さっきのお話ですと、任務に失敗した国民捕獲官は今みたいにボックス内でガスによる処刑じゃなかったみたいですが…。」
「…そうですね。当時は、死刑囚と同じ絞首刑だったんですが、ある理由から今の形に改善されたんです。」
湯浅はいっさい葉山の方を向かず、正面を見ながら淡々と答えた。
「…ある理由…?」
「…処刑が間に合わないんですよ、失敗する国民捕獲官が多くて。…なので、簡素化されたんです。」
「…そんな理由なんですか。…国民捕獲官は崇高な存在なんですよね?なんか尊重とか、そんな感情から掛け離れてるんじゃないですか?」
「でも、処刑囚と同じ恐怖を与えるのも違うとは思いませんか?…正直、私は今の死刑方法の方がいいです。」
「…でも、大切な人に別れを告げる時間は与えてくれませんよ。時間で噴射されますからね。…そういう意味で、自分は反対しました。」
湯浅は思った。あの時、妻と別れを告げることが出来ただけでも、今の国民捕獲官より幸せだったのかもしれないと。
「…確かに、葉山くんの意見の方が正しいかもしれませんね。」
湯浅の呟きに葉山は何も答えなかった。
“…確かに、葉山くんの意見の方が正しいかもしれませんね。”
「中々、壮絶な過去を持ってるな、湯浅ってのは。」
警察署側に停車している車。
二人の会話をイヤホンを通じて聞いている露木がニヤリと笑った。
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