5人が本棚に入れています
本棚に追加
ナビに従い警察署に向かう道中。圭介は、すっかり日が傾いていることに気が付いた。
「…お腹空いたな。」
圭介が自然にぼそりと呟いた。
「あ、嫌だ。私すっかり高梨さんのご飯のこと忘れてました。何が食べたいですか?お届けしますから。」
「届けるって、桜庭さんがですか?」
「勿論です。それも私の仕事ですから。何でもいいんで、値段も気にしないで言ってください。ステーキでもフォアグラでも高級寿司でも!」
圭介は考えた。明後日の期限までに栗村を捕まえないと死ぬことになる。もしそうなったら、あと何回ご飯のタイミングがあるんだろうか。間違いなく数えられるくらいしかないだろう。
なら、食べたい物を食べる。…でも、食べたい物?…何だろうか、そもそもこの状況でよく腹が減ったな。死ぬかもしれないのに。
「…死…。」
圭介がまた自然に呟いた。
「え!?今何ておっしゃいました?」
「…あ、いえ、何でも…。」
圭介は、忘れていた感情をふとしたことで蘇らせてしまった。
“死”という恐怖を。
「…高梨さん?」
モニター越しに、圭介が無言のまま俯き少し震えているように見えた桜庭が心配そうに話し掛けた。
「…ごめんなさい。食べたい物考えてたら、ふとしたことから、もしかしたら二日後に死ぬかもしれないって急に考えちゃいまして…。」
「…そうだったんですか。…でも、死なせませんよ。高梨さんは死にませんし、私も死にません!さぁ、腹が減っては戦は出来ぬ。何でも言ってください。」
“ハンバーグですか。意外と子どもっぽいのが好きなんですね。”
「こっちはこっちで楽しそうにやってるな。…しかし、全く危機感がないな。葉山のスーツの裏側と本部の壁に貼り付けてきたこれが未だにバレてないとはなぁ。」
露木は、指で挟んだ超小型のシール型の盗聴器を見てニヤリと笑った。
「高梨家の跡取りの国民捕獲官、そして壮絶な過去を持ったケースワーカー湯浅、次の記事はどっちにすんかなぁ。」
露木はイヤホンをしたまま車を発車させた。
最初のコメントを投稿しよう!