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繊細なレース模様の手袋、愁いを帯びた空を詰め込んだ紺青色の袴、気取ったブーツ、強い女によく似合う鮮やかな赤のルージュ、全てが私のほしいものたちだった。深遠な夜はいつだって優しく孤独を包んでくれてままならない言葉を誤魔化した。泣きわめきたいくらいほしくって、でも似合わないのはわかっているから手を伸ばさなかった。
爪先に透き通った木漏れ日の雫が落ちる。瞬く星はいつだって不誠実でわずかに届かない、だからシャッターを切るのかもしれない。手に入れることができないのならせめて残像だけでも触れていたかった。手の中のものを捨ててしまう勇気はなくって、動けないうちに身体はどんどん酸素と化合して錆びていく。目はどんどん何が正しいのかわからないままに濁っていく。さっきまで佇んでいた上弦の月も見えなくなった。
もうじき夜が明ける。朝は何もかも照らしていく、醜い顔とか厚顔無恥な思考とか苦々しい劣等感だとか。今日は昨日を繰り返す前にギターをかきならそう。
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