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「…………」
「でも、きみはまだ帰れる。だから──」
「じゃあ、わたしが一緒にいてあげる」
「──え?」
「一緒に遊ぼう。そうだ、観覧車に乗ろう? メリーゴーランドにも乗りたいな、それから──」
「…………」
ひつじの目がくるんと丸くなる。それから、はあ、と重たいため息を吐かれて。
「だめだよ」
と少女の期待は跳ね返されてしまった。
「きみにはパパとママがいるんだよ。きっときみを待ってるよ」
「……そんなの」
少女は自分の服をきゅっと掴んで、その力で言葉をちょっとずつ絞り出していく。
「そんなの、わからない。待ってないかもしれない」
「ううん。きっと待ってる」
「来るのが遅いって、怒られてぶたれるのはいや。優しくしてもらえないのも、いや」
「……それは」
「パパとママのおうちは、ここよりもずっと楽しいところなの?」
「……それは、わからない。けどきっと楽しいよ。楽しくて、あたたかくて……世界で一番幸せな場所のはずだよ」
「ほんとうに?」
「…………」
「約束できる?」
「……約束は……できないけど、でも──」
ひつじが口ごもっていると、ふっと空から眩しい光が差してきた。
明るい明るい光。冷たさもあたたかさも孕んだ、言葉にできない大きさと温度の、光。
少女はほんの少しの間だけそれに見とれたが、それがとろりと暗転すると、意識を向けていた先を元に戻した。
「……わたし、さかなを見てくる」
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