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おはようの雨
五杯目のサイダーを飲み干した彼女は、霧のかかった通路の真ん中まで走って空を見上げた。オルゴールの音はもう止まっていて、今にも泣き出しそうな真っ黒い曇り空が広がっている。
彼女は空から目を逸らす。こんな退屈な空は嫌だと。
──そうだ、次はあの空飛ぶ馬車に乗ろう。
ずっと楽しいことをしていよう。
──そう、思っていた。彼女はそうすることを望んでいたのだが。
「どうして通せんぼするの?」
「…………」
真っ白いシャツに体を包んだ、二足歩行の真っ白い『ひつじ』。それは、彼女が遊びに行こうとすると必ず現れて、彼女をこうして阻んでくる。
「おうちに帰りなさい。おじょうさん」
そう言って、優しい声で。
どうしてかとても寂しそうな声で。
「でも、もっと遊びたい」
「だめだよ、これ以上ここにいると──」
「そんなに帰りたいなら……、ひつじさん、ひとりで帰って……」
「…………」
ジェットコースターが、言い合う少女とひつじの頭上を通り過ぎた。わたあめみたいな風が吹き抜けて、少女の長い服の裾がはためいた。
ひつじは、黙ってうつむいてしまう。
少女はひつじを傷付けてしまったと思って焦って、それでもわたしは悪くないからと、きゅっと唇を隠してうつむいた。
「ぼくはね」
ひつじの声は、いつまでも寂しそうだ。
「もう、泣いても喚いても、おうちに帰れないんだ」
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