ベーコンと卵があれば

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ベーコンと卵があれば

刑法224条  未成年者略取及び誘拐罪  未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。  私が誘拐犯である事実が確定的に明らかになった現在、私の頭はフル回転で空回りしながら、どうすれば罪が軽くなるかを計算していた。  ウィーン、ウィーン。コンピューター、ケイサンハマダカ?コタエハマダデナイカ?  出ねぇよ!  どうするのよもー、こんなことしちゃって、人生詰み確定じゃないの!  とにかく自首!自首しよう!泥酔していたので、とかなんとか言って!情状酌量の余地とかなんかを狙って!  そうと決まれば善は急げよ! 「雄太くん……だっけ?とにかくまずは服を着て。そしたら出かけるから!」 「えー、でもー」 「ん?どうしたの?一人じゃまだ着替えできない?」 「違うよ!」 「じゃあ一体どうしたのよ?」 「だって僕の服、昨日おばさんが洗濯しちゃったよ?」  ファッ!?  洗濯!?  慌てて洗濯機の前まで走る。  蓋を開けるとそこには、今まで見たこともないシャツにパンツに服に半ズボンに靴下に……が洗濯完了して干されるのを待っていた。 「これは……乾くまで着られないかぁ……」  私はやむなくその小さな衣類を部屋干しする。  そりゃベランダに干せば乾くのも早いだろうけれど、今それをやって誰かに見られたら……。 「おはさん!」 「え、なに?」  パシッ!  雄太くんがいきなり私のお尻をひっぱたいた。  な、なによ、一体! 「おばさんのお尻、プリーン!」  小学生男子恐るべし。行動に全く脈絡がない!  とりあえずなにか着させないと……。  私は雄太くんを追いかけ、取り押さえた。 「ぎゃー!はなせー!」  ゲラゲラ笑いながら抵抗する雄太くん。 「離しません。とにかくなんか着なさい。いつまでも裸じゃ……」  あれ?  そこで私は雄太くんの体の異常に初めて気がつく。  背中にいくつかの変色している箇所が……これは、痣? 「ちょっと雄太くん、これどうしたの?」 「なにがー?」  なにがー、じゃないってば。 「背中の痣よ。これどうしたの?」  雄太くんは一瞬考えて答える。 「転んだ……」  転んだ?  それでこんな位置にこんな痣がつくだろうか?  なにか嫌な予感がする。 「本当にそうなの?」 「本当だよ」 「ねえ、ちゃんとこっちを見て言って。本当に転んでできた痣なの?」 「おばさん……」 「……」 「オッパイ触ってもいい?」  ファッ!?  何だこのマセガキ?  もしかして話を逸らそうとしているのかな、なんて小賢しい。 「なによいきなり!だめに決まってるでしょ?」 「どうしても?」 「どうしても。雄太くんだって……えっと、おちんちん触らせてって言われても、いやでしょ?」 「触らせてあげたら触らせてくれる?」  ファァーーーッ!? 「だったら触っていいよ!」  雄太くんは両手を越しに当てて股間を突き出す。  待って待ってちょっと待って! 「ほら、触っていいよ!」  雄太くんの強気の姿勢に私はまるで催眠にかかったようにおずおずと手を伸ばし……たりするかぁ! 「いい加減にしなさい!」  とりあえずクローゼットからしまってあったカッターシャツを取り出すと雄太くんに着せる。  うーん、これは着せると言うよりも被せるって感じかなぁ。  ともかく雄太くんのチビゾウさんを隠したあと、私も適当な服を着てどうしたものかと思案する。  普通の週末なら掃除したり本を読んだりテレビを見たり……いろいろすると言うか時間を潰す方法はいくつかあるけれど、今日はそうも言っていられない。  かと言って雄太くんの服が乾くのはだいぶ先だろうし、そうは言っても出頭のタイミングが遅れて、逆におまわりさんに玄関をノックされたりしたらアウトだし……。 「ねえおばさん」 「なに、雄太くん?」 「おなかすいたー」  ああ、そういえば食事がまだだった。  「そうね……朝ごはんにしましょう。雄太くんはパンでいい?」 「うん、パンでもいいよ」  でもいい、とはこいつ……。  とにかく私は朝食の準備を始めた。  まあトースターに買い置きしてある食パンを放り込んでタイマーを掛けるだけだけど。  あとなんかおかずを……あ、卵は一つしかないしベーコンは切れてるなぁ。  うーん、パンに味噌汁? <<つづく>>
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