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「え?」
「昔みたいに俺はできない」
それだけを言った壮一の言葉の意味が解らず、日葵は動けなかった。
「ごちそうさま」
それだけを言うと、壮一はキッチンで自分の食器を洗うとその場でジッとしていた。
「そうちゃん? さっきのどういう意味?」
「日葵、やっぱり昔と今は違う。俺はこうして日葵と一緒にいて手をださない自信がない。だから、もう無理だ」
流れっぱなしだった蛇口の水の音が、やたら大きく聞こえる。
壮一の言っている意味がまったくわからない。
呆然とその場で何も言えない日葵に、壮一は大きなため息とともに髪をかきあげる。
「日葵、悪い。後の片づけは任せた」
それだけを言うと、壮一はリビングを出て行ってしまった。
バタンと玄関のドアが閉まる音を聞いて、壮一が家へと帰ったことがわかる。
(な……に? 意味が解らない)
混乱する頭に、煩いぐらい早い心臓の鼓動が日葵に響いた。
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