変化する関係

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「帰ろう」 いつのまにか涙はとまり、ドクンドクンと自分の心臓の音だけが響いていた。 (私のことが好き?) 日葵は何も答えることが出来ないまま、二人でお互いの玄関の前で立ち止まる。 鍵を開けて家に入らなければ、そう思うも日葵はこのまま帰っていいの?そう自問自答したまま立ち尽くす。なにを言えばいいかわからないが、とりあえずこのままでは嫌で壮一を呼ぼうとしたその時、一息先に壮一の声が聞こえて日葵の肩が揺れた。 「こんな大切な時期に本当に悪かった。困らせるつもりはなかった。上司として明日からもよろしく頼む」 バタンと音がして壮一の姿が見えなくなり、日葵もザワザワとする心のまま家の中へと入るとリビングの床に座り込んだ。 “上司として“その言葉が突き刺さる。昔のようにじゃれ合うことも、兄として頼ることもそれができなくなったということを理解する。 セミの音が煩くて気が遠くなるほどの暑いあの夏の日から、何が変わりどうしてこうなったのか。
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