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勝手にいなくなり、置いて行かれた時のあの喪失感、二度と男の人に振り回されたくない。そう思って一人で生きてきた。今もまだあの時の寂しさ、あの夏の思い出が消えたわけではない。でも、少しずつお互い誤解を解いて前に進みだしたと思ったのに……。
こんな未来を望んでいたのだろうか。
日葵は考えなければいけないと思いつつも、ただザラリとした砂をぶちまけたような、落ち着かない気持ちだけが心を覆っていくのを感じた。
そんなことがあっても、朝はやってきて仕事は待ってはくれない。
「長谷川さん! これもお願いできる」
「わかりました」
しかしパソコンに一心不乱に昔、淡々と仕事をこなす慌ただしく忙しい毎日は、日葵にとってありがたかった。
少しでも余計な暇があれば、グルグルと迷宮のような思考回路に陥りそうだった。
疲れ果てて夜も何も考えずに眠れる日々がありがたかった。
そして、壮一も毎日忙しそうで、どんどん顔色が悪くなるのが気にならないわけではなかった。
しかし、上司と部下、それだけだと言われてしまえばもう、日葵に出来ることは何もなかった。
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