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「長谷川」
そんなことを日葵が思っていると、静かに日葵を呼ぶ声に部屋のドアに視線を向けた。
「もういける?」
いつも通りの柔らかな笑みを浮かべている崎本に、なぜか落ち着かない気持ちが襲う。
どれだけ待つと言ってくれている崎本でも、こんな気持ちで一緒になんていくことはできない。
そう告げようと思ったところで、崎本の手が強引に繋がれる。
「部長!?」
慌てて言葉を発した日葵に、崎本は真っすぐ前を見たまま答える。
「今日は俺に付き合ってくれるって約束だ」
「でも私……」
「聞きたくない」
痛いほどにつながれた手に、日葵の心は締め付けられるほど苦しくなる。どれほどこの優しい崎本を待たせ、自分勝手なことをしてきたのだろう。
どれだけ待つと言ってくれても、きっぱり距離を置くべきだった。
(私が一番最低だ……)
どうしてこんなことになってしまったのだろう。それだけがグルグルと頭の中を回る。
縺れてしまった糸はどこをどうほどけばいいのか、日葵にはもう分からなかった。
日葵はただ崎本に手を引かれながらパーティー会場へと向かった。
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