浜辺の唄

1/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

浜辺の唄

 柄杓ですくうのは、霊峰富士から取り寄せた水。それを、手元の刀にすうっと掛けてゆく。  刀の銘は村正。真偽の程は定かではないが、切れ味は確かである。  続けて、鈍く妖しく光を湛える刀身に(なだ)の清酒を吹き掛ける。 (あの人の好きな酒だ)  私はつい、微笑みを浮かべてしまった。 (いかんいかん、こんな事では)  雑念を振り払うように刀を一振り。  切先から清めの雫が飛散し、()()()に染みをつくる。  そこで私は大きく息を吐いた。 (気ばかり急いて困る)  外はようやく鳥がさえずり始めた時分。この刀を振るうのは夕刻だから、まだまだ優に数刻もある。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!