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「どしたの」
「島野。どうするか決まったら」
私の中に先ほどの勘違いプロポーズがよみがえった。
「なんか、くれるの」
できるだけ低い声を出したが、うわずってしまっただろうか。
「大したことじゃない。自販機のジュース、おごってやろうかと」
「……ありがと。カップのがいいな」
「いいけど、缶の方が便利だろ。カップだとすぐ飲まないとだめなんじゃないか」
私は拓斗を見下ろし、腕組みをした。
「飲み終わるまで付き合ってよってことよ。自販機コーナーに、ベンチあるでしょ」
「あ。う、うん。そっか。そうだな」
「いちごラテ、Lサイズでよろしく」
彼が立つ踊り場はこちらよりも暗くて表情がはっきりと見えなかったが、微かに笑う気配がした。
「オッケ。じゃな」
「ん。その次は、私がお礼になんかおごる」
拓斗を見送っていると、背後の「安田さん」と「木漏れ日」から視線を感じた。
私は彼らを見ないように作品の前を通り過ぎると、階段の照明を点けてから画廊を暗くした。
それから進路指導室に向かって下り始めた。
<完>
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