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源之進は獣じみた叫び声をあげながら、脇に置いた刀――首切丸を手に取った。
そして、居合抜きのように抜きつけに、権蔵を首をはねたのである。
ごろり。
権蔵の首が胴を離れ……地に掘った穴に落ちた。
胴体の切断部から噴き出た血が、穴を転がる首にかかった。
「見事じゃ」
遠くから、殿さまの声がかけられた。
(なんだ)
源之進は当惑した。
あたりを見まわす。
そこは城内の隅に作られた処刑場である。
陽は高い。
向こうで、殿さまやご家老たちがこちらを向いている。
家で酒を呑んでいると思ったのは幻であり、自分がたったいま権蔵を打ち首にしたのだと悟るまでに、数呼吸を要した。
首切丸は彼の手にある。
刀が、ごくりと血を呑みこむ気配がした。
ぼう然と立つうちに、寒々としたふるえが背筋から起こって全身に伝わった。
それは、殿さまやご家老たちがニタニタと薄気味悪く笑っているせいではなかった。
(おれは今宵気がふれて、妻と娘を殺すだろう)
その思いが源之進をとらえて離さなかったためである。
〈了〉
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