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ひと月前――
源之進の仕える軽見家の殿さまが、どこから聞きつけたものか、首切丸に興味を持ち、こう言った。
「妖刀なるもので、人の首をはねるところを見てみたいのう」
ちょうどその頃、盗賊の一味が捕えられたところだった。城下の大きな商家に押し入り、主人一家と使用人を皆殺しにして金を盗んだ男たちである。裁きはすぐに終わり、当然のごとく、盗賊の頭、権蔵は打ち首の刑と決まった。
殿さまは、その権蔵の首を、
「首切丸ではねて見せよ」
というのである。
当初、源之進は首切丸を貸し出すだけであり、権蔵の首をはねる役目は、いつもその任にあたる牢役人が担うはずだった。
ところが、首切丸を抜き、権蔵の首をはねる段になって、牢役人の気がふれてしまったのである。
彼に代わって、もうひとりの牢役人が処刑役に当てられたが、同じことだった。気がふれて、ついには座敷牢に閉じこめられてしまった。
二度も首をはねる場を見そこなった殿さまはいらだった。
「ならば、岡田本人に切らせよ」
そう命じた。
岡田源之進は、身分こそ低いが、城下の高木道場で免許を得た腕である。殿さまの命を遂行するのに、なんの問題もない。
こうして、源之進は罪人の首切り役を務めることになったのだった。
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