妖刀

3/10
前へ
/10ページ
次へ
          *  ひと月前――  源之進の仕える軽見家の殿さまが、どこから聞きつけたものか、首切丸に興味を持ち、こう言った。 「妖刀なるもので、人の首をはねるところを見てみたいのう」  ちょうどその頃、盗賊の一味が捕えられたところだった。城下の大きな商家に押し入り、主人一家と使用人を皆殺しにして金を盗んだ男たちである。裁きはすぐに終わり、当然のごとく、盗賊の頭、権蔵は打ち首の刑と決まった。  殿さまは、その権蔵の首を、 「首切丸ではねて見せよ」  というのである。  当初、源之進は首切丸を貸し出すだけであり、権蔵の首をはねる役目は、いつもその任にあたる牢役人が担うはずだった。  ところが、首切丸を抜き、権蔵の首をはねる段になって、牢役人の気がふれてしまったのである。  彼に代わって、もうひとりの牢役人が処刑役に当てられたが、同じことだった。気がふれて、ついには座敷牢に閉じこめられてしまった。  二度も首をはねる場を見そこなった殿さまはいらだった。 「ならば、岡田本人に切らせよ」  そう命じた。  岡田源之進は、身分こそ低いが、城下の高木道場で免許を得た腕である。殿さまの命を遂行するのに、なんの問題もない。  こうして、源之進は罪人の首切り役を務めることになったのだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加