妖刀

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 ふと、権蔵の顔に目隠しがされていないことに気がついた。刀を見て怯えないように、顔の前に白い布をかけるのが普通だと聞いている。 「目隠しがないようだが」  と、そばの役人に訊ねた。  役人が答えるより前に、権蔵が、 「そんなものはいらねえ。とっととやっておくんな」  吐き捨てるように言って、自ら穴のへりへ身を乗りだし、日に焼けた首筋をさしだすようにした。 「ではまいる」  源之進は刀を振りかぶった。  刀身がぶるると震えた。  刀が笑っているのだった。  二百年のときを経て、いままた血を吸うことができる、その喜びに打ち震えているのである。 (ええい、気にするな)  源之進は刀を振り下ろそうとした。
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