妖刀

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 その刹那――  権蔵の首がくるりと回った。  ふり向いたのではない。  作りものの人形の首がくるりと回るように、人間の首が回って、源之進を見上げたのである。  しかも、その顔が、権蔵のそれではなかった。 「ととさま、助けて」  それは、源之進の七つになる愛娘、おいくの顔だったのである。  ぎょっとした源之進は、体の動きを止めようとした。  が、止まらなかった。  血に飢えた首切丸が落下する。  刀に引っぱられて、腕が振り下ろされる。  そんなふうに感じられた。  刀が、まるで豆腐でも切るかのように、やすやすとおいくの首をはねた。  首は胴体を離れ、ごろりと穴のなかへ落ちた。  胴体側の切断部から大量の血が噴き出して、転がった首にかかった。  ハッとした源之進が見直したときには、しかし、それはすでにおいくではなかった。  間違いなく、権蔵の首であった。 「見事じゃ」  遠くから、殿さまの声がかけられた。
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