妖刀

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         * 「まったくもって肝を冷やしたわ」  岡田源之進は、唇をゆがめて笑うと、ぐいと杯をあおった。  久しぶりに家で呑む酒である。  みごとに罪人の首をはねた褒美に、殿さまから、金子三枚と角樽入りの酒をたまわったのである。  三両は、下級武士の岡田家にとっては貴重であり、久しぶりに酒をたしなめるのもありがたかった。  源之進が空いた杯を差し出すと、そばに控えていた妻のおしのが、だまってひざを進め、銚子を取って注いだ。  相変わらず陰気な女だ、と思いつつ、源之進はまた杯を空ける。  今日の処刑がうまくいったことや、これで牢役へ転身できることなどを話しても、おしのは喜ばなかった。源之進のほうから顔をそむけ、 「さようでございますか……」  と、低い声でつぶやいただけである。  普段なら、膳を持ってきたあとは台所へ引っこみ、娘のおいくといっしょに夕飯を食べる。それを、今宵ぐらいは嬉しい報せを聞かせてやろうと、引きとめたのだった。
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