10人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「まったくもって肝を冷やしたわ」
岡田源之進は、唇をゆがめて笑うと、ぐいと杯をあおった。
久しぶりに家で呑む酒である。
みごとに罪人の首をはねた褒美に、殿さまから、金子三枚と角樽入りの酒をたまわったのである。
三両は、下級武士の岡田家にとっては貴重であり、久しぶりに酒をたしなめるのもありがたかった。
源之進が空いた杯を差し出すと、そばに控えていた妻のおしのが、だまってひざを進め、銚子を取って注いだ。
相変わらず陰気な女だ、と思いつつ、源之進はまた杯を空ける。
今日の処刑がうまくいったことや、これで牢役へ転身できることなどを話しても、おしのは喜ばなかった。源之進のほうから顔をそむけ、
「さようでございますか……」
と、低い声でつぶやいただけである。
普段なら、膳を持ってきたあとは台所へ引っこみ、娘のおいくといっしょに夕飯を食べる。それを、今宵ぐらいは嬉しい報せを聞かせてやろうと、引きとめたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!