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源之進はいらだった。
「なんだ、その顔は。夫のほまれを少しは喜ばぬか」
とがめると、おしのは顔を伏せたまま、
「……はい、喜ばしゅうございます」
と、まるで悔やみの言葉でも言うように答えた。
「なんだ。なにが不満だ。申せ」
源之進は杯を膳にもどして、さらに声を荒げた。
おしのが源之進を見た。白い能面のような顔をそむけたまま、目だけを彼のほうに向けたのである。
ゆらりと行燈の火が揺れた。
おしのの目は、揺れる明かりの陰となったように、どのような感情を込めているのか、判然としなかった。
「それで、お前さまは、おいくを斬ったのですね」
抑揚のないもの言いだが、確かに源之進をとがめだてるような棘があった。
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