妖刀

8/10
前へ
/10ページ
次へ
 源之進はいらだった。 「なんだ、その顔は。夫のほまれを少しは喜ばぬか」  とがめると、おしのは顔を伏せたまま、 「……はい、喜ばしゅうございます」  と、まるで悔やみの言葉でも言うように答えた。 「なんだ。なにが不満だ。申せ」  源之進は杯を膳にもどして、さらに声を荒げた。  おしのが源之進を見た。白い能面のような顔をそむけたまま、目だけを彼のほうに向けたのである。  ゆらりと行燈の火が揺れた。  おしのの目は、揺れる明かりの陰となったように、どのような感情を込めているのか、判然としなかった。 「それで、お前さまは、おいくを斬ったのですね」  抑揚のないもの言いだが、確かに源之進をとがめだてるような棘があった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加