弐 ブナ林の少女

1/2
前へ
/63ページ
次へ

弐 ブナ林の少女

 ロングホームルームの学校祭の話し合いはグループに分かれて行われる。俺と栄斗は装飾班Bであり、俺達の席が前後であることからこの位置が話し合いの場となっていた。俺と栄斗、そしてそれぞれの右隣の席の計四つの机を向き合わせて準備をする。  後は残りの班員が来るのを待つだけである。 「ちょっと、聞いたわよ? こーちゃんってば変態さんなのね。さっきハルくんが言ってたわよ」  用意された席に着くよりも先にそんな声をかけてきたのは腐れ縁幼馴染み二号の美幸(みゆき)だった。どうやら栄斗が情報を流したらしい。 「あれは不可抗力……」  座っていた俺は顔を上げ、美幸と一緒にいる人物に気が付く。 「あたしは気にしてないから大丈夫だよ美幸ちゃん」  そうだ、こいつも同じグループだった。しかも班長ではないか。 「朝日君なんかに下心なんてあるわけないじゃん」  褒められているのだろうか。それとも貶されているのだろうか。昼休み俺が掴んでしまったスカートの主たる日和(ひより)はからから笑う。  装飾班Bのメンバーは俺、栄斗、美幸の腐れ縁トリオと、美幸の親友日和の四人だった。先日くじで班決めをしたのだが、非常にできすぎな組み合わせである。誰のくじ運がいいのだろう。  そして、そんなくじの結果を見た時の時田先生の反応が忘れられない。「小暮(こぐれ)(あけぼの)の世話は朝日に頼んだぞ」と言わんばかりに悟ったような、諦めたような、縋るような、何とも言えない穏やかな顔を俺に向けたのだ。俺は二人の保護者になった覚えはない。  万年赤点ギリの小暮栄斗と、万年赤点すれすれの曙美幸はとにかく元気を有り余らせている。その元気をぶつけられ続けているのが俺である。社交的で明るい二人は友人の数も多い。俺にくっ付く必要などないのだ。しかし、長年の付き合い故に俺といると落ち着くなどとのたまいやがる。  とどのつまり、俺の横に置いておけばはしゃぎすぎないということだ。学校祭は一大イベントである。無事に準備をしたいというクラスメイト達としては、大騒ぎしかねない二人がまとめて自分達の班に来てしまうと困るのだ。栄斗、美幸、とくじが開けられた直後の教室内の緊張感と、俺が二人と同じ班だと明らかになった瞬間の安堵感は俺的には非常に不本意であり、俺自身の自由が消えたことの証明だった。  しかし、くじびきの結果は甘んじて受け入れるしかない。さらば、俺の平和な学校祭準備期間。 「はいはーい、提案があります」  日和が手を挙げてぶんぶん振った。机を向き合わせているのだから、そんなにアピールをする必要はない。日和はクラスのマドンナなどと呼ばれるようにそこそこ整った顔をしており、行動面においてもそこそこしっかりしている。しかし、時折子供っぽさがにじみ出る。そこが少しかわいいところだとも思うが。  小学生の時から使っています。というようなキャラクターもののシャープペンを手にした日和は、学校祭準備期間の日程表を指し示した。 「放課後残るって言っても時間が限られちゃうでしょ? だから、今度の土曜日誰かの家に集合して少し進めない? って思って」 「あー、俺んちはちょっと無理。友達呼べる部屋じゃねえし」 「ハルくん片付け苦手だもんね。えっとね、わたしもちょっと無理かも。弟が友達と勉強会するって言ってて」 「美幸ちゃんの弟、受験生だったっけ? そっか。じゃあ、朝日君は?」  三人の視線が俺に集まる。学業以外においても期待の眼差しは少々苦手である。 「妹が友達呼んで遊ぶって言ってた」 「それに晃一の部屋なんか問題集と参考書しかねえから息がつまるもんな」 「こーちゃんのお部屋恐怖空間だからね、行かない方がいいわよ日和ちゃん」 「五月蠅い黙れ」  俺達のやりとりを見て笑いを堪えるような顔になっている日和は、それを誤魔化すべくわざとらしく咳ばらいをした。 「分かった。じゃああたしの家でやろう。言い出しっぺあたしだしね」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加