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五年の林間学校の肝試しでも、六年の修学旅行の遊園地の絶叫マシンでも、リクはまったく動じなかった。なのに怖いものがいっぱいあるなんて。
強い風が吹いて、私の短い髪がクシャクシャになる。その風の音にまぎれるようにリクは言う。
「僕は、人がいなくなるのが怖いんだ」
なぜかその言葉を聞いて、どきっとした。人がいなくなること。それは確かに怖い。私ももし明日からヨリちゃんがいなくなったらどうしようって思う。
でもやっぱりリクがそれを言うのは意外だ。だってリクは誰かに話しかけたりするタイプじゃない。よく言えばクール。悪く言えば他人に興味がない。そんなかんじなんだから。
でも少しだけ、私の頭によぎるものがあった。何かと何かがつながったあのかんじ。
「おじいちゃん……」
「え?」
「リクのおじいちゃん。私、今日おじいちゃんの夢を見たの」
そうだ、リクのおじいちゃん。リクが今のクールな性格になったのは私達が幼稚園児だった頃、おじいちゃんが亡くなってからだ。それまでのリクは引っ込み思案ではあったけど、笑いかけたら笑い返してくれるような子供だった。なのにおじいちゃんが病気で亡くなって、おじいちゃん子だったリクは相当なショックを受けていたようだった。
何事にも一歩ひいたような性格になって、皆心配した。でもそのまま今になって、皆は『これが本来のリクの性格なんだ』と思うようになって、誰も気にしなくなった。でも私はたまに思う。リクは元からクールな性格じゃなくて、そう振る舞っているだけだって。
「そう。おじいちゃん、なんて言ってた?」
「覚えてないよ。夢なんだから。お菓子もらったのは覚えてるけど」
「ほのかとおじいちゃんらしい」
昔みたいにリクが笑った。
そうか、きっとリクは今も誰かがいなくなる事が怖いんだ。誰かが怖いからこそ誰とも仲良くならないようにしている。知り合う人が増えるほど、いなくなる人も増えるから。
「……そうだ、ライバル」
「え?」
「ライバルになってあげてって言ってたの。リクのおじいちゃんが」
「……それは夢で?」
「ううん。昔、おじいちゃんが入院して、お見舞いに行ったとき」
雷にうたれたように、私は古い記憶を思い出す。それは痩せたおじいちゃんが、病室で苦しそうだけど優しく言った言葉。『ほのかちゃんはリクのライバルになってね』という言葉。
その言葉から数日後におじいちゃんは亡くなった。
なんで私がリクに対してライバルライバル言うのか、その理由がやっとわかった!
リクのおじいちゃんの言葉だったからだ!
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