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「ほのかちゃん。それ開けちゃってよ」
「いいんですか? こんなタイミングで」
「いいよ。潔白証明ついでに渡しとく」
私は封を開けて、中のものをリナさんによく見せた。
「マドレーヌ?」
「うちのお店でリナさんが買ったものなんです。リナさん、『ひなさんと一緒に食べる』って言って」
「こら、そこまで言わなくていいの。後で男子には内緒で渡そうと思ってさ」
予想していなかったタイミングでプレゼントを渡すことになって、リナさんは少し照れくさそうだ。しかしひなさんは真顔でマドレーヌをじっと見て、そしてぼろりと大粒の涙を流した。
「ちょ、ひな!?」
「ごめんなさい、私、リナを疑ってた……」
「疑ってたって、私を?」
「うん。リナ、荷物で何か隠しているなと思ったから。それでもしリナが盗んでいたのなら身体検査で二人になった時に『うっかりまぎれこんだ』とか口裏を合わせようと思ってて。でも、まさか隠していたものがこれだなんて」
きっとひなさんは自分が友達を信じられなかったことが悲しくなったのだろう。友達を疑って、でもその疑ったものは自分のためのものだった、なんて想像しても辛い。
リナさんはちぢこまったひなさんの背をぺしぺし叩く。
「もー、こんな事で泣かないでよ。いいんだよ、疑ってたって。私も疑ってる人いるし。それにひなは疑っても私を助けようとしてくれたんでしょ?」
「うん……」
「ならいいよ。それよか今日はさっさと無実を証明して、アヤカに着物着付けてもらって、おまつり楽しもうよ」
ひなさんは涙を拭って笑った。やっぱり呉服屋さんに連れてきてよかった。着物を着るついでなら、身体検査もそれほど嫌ではなくなる。
でも、リナさんが気になることを言っていた。
「リナさん、疑っている人って?」
「ああ、ユウジ君だよ。悪いとは思うしなんとなくだけど、一番怪しいと思ってる」
あっさりと自分の考えを語るリナさんに私もひなさんもびっくりした。だってユウジさんは会費を預かる立場の人だ。会費がなくなったら一番困る人と言ってもいい。
「ヒロキ君がさ、身体検査しようって言い出したじゃない。あれって不自然だと思わない?」
「うん、不自然。だってヒロキ君、自分の事をひどく書かれても犯人探しなんて絶対しなかったし、リナの本が破られたときだってリナのフォローの方に気を配ってたもん」
女子二人の意見で、ヒロキさんがすごく優しい事がわかった。確かに自分や犯人よりも困っている人の事を考える人が、急に犯人探しをするとは考えづらい。
「もしかしてヒロキ君は犯人がわかっていて、男女別れたときにはっきりさせたかったんじゃないかな。で、レン君は正義感強くて付き合いの長いヒロキ君も信用してる。男子だけになれば二対一で優勢だし、私達が巻き込まれる心配もない。だから身体検査を言い出したんじゃないかなって」
「あっ」
「そしたら犯人はユウジ君じゃないかな、って私は疑ってるの」
リナさんの推理はヒロキさんの性格を考えてのものだった。
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