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緊張から開放された様子でヒロキさんが提案する。もう皆ユウジさんの事を忘れて楽しい思い出を作りたいはずだ。
けれどリナさんが意地の悪い笑みを浮かべる。
「あらあら、ヒロキさんったらせっかく二人きりになるチャンスだっていうのに四人で過ごすつもり?」
「もう隠すつもりはないんだからさ、二人で出かけな。リナちゃん、和菓子屋つきあってくれない? 和菓子屋さんにお礼言いがてら家族にお土産買いたいんだけど、選ぶの手伝ってよ」
「はいはい。行こっかレン君」
リナさんとレンさんはセリフでも用意していたのかというくらいテンポよく会話して、再び和菓子屋へと向かった。
私も空気を呼んで、リクのシャツの裾を小さく引っ張る。
「お花見、チラシ、配りに行こう?」
「あ、ああ、うん」
リナさん達みたいにスムーズなやり取りではなかったけれど、私達もその場を離れる事に成功する。これで残されたのはヒロキさんとひなさんの二人きり。今まで堂々とできなかったぶん、二人で過ごしてほしいな。
■■■
その日の夜。公園では夜桜を楽しむ人もいるけれど、商店街ではお祭り終了で、私はネージュの店前でドキドキしながら結果発表を待った。
「では、ネージュと雪華堂さん、さくら祭り限定菓子、店舗販売・SION販売数をお前達に伝える」
仁王立ちして仰々しく言ったのはお兄ちゃんだ。今回の限定菓子、ネージュのマドレーヌと雪華堂の花見団子、どちらが売れたかという勝負。お兄ちゃんはその審判を引き受け、わざわざ雪華堂まで行っておだんごの売れ行きを聞き、こうして発表の場を用意してくれているのだ。お兄ちゃん、大人の割にこういうことに付き合ってくれるんだから、私以上の勝負好きでお祭り好きだ。
「ドゥルルルルルルル、ドン! 雪華堂さんの方が六個多い!」
わざわざドラムロールまで口で言ったお兄ちゃんが告げたのは、雪華堂、リクの勝利だった。
「今回SIONも参加ということで信用から新規の女性客が多く、マドレーヌも好調だった。しかし雪華堂さんのところへ途中イケメンが大家族だとかで大量に買って、それを見た女の子達が釣られて買ったのも大きかったんだろうな」
女性客の多さで有利だったネージュが負けた敗因。それはレンさんがあの後お花見だんごを爆買いしたことだ。
なんとレンさんは大家族だったらしい。六人兄弟で、一人一本じゃ足りないから大量に買ったらしい。そしてその後、レンさんは雪華堂の紙袋を持って着物姿のリナさんと出歩くわけだけど、それがすごく絵になって、それを見た女性客が『和菓子ってよくない?』と思ったらしい。
それで負けたというわけだ。
「僅差だしイレギュラー要素も多いし、結果は気にすんなよ。じゃあ俺は打ち上げで居酒屋行くから、中学生達は留守番してろな」
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