ラブコメです!

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ラブコメです!

〈嗚呼、うるわしの御曹司 〜とある勘違い御曹司の恋〜〉前編 「フッ・・・今日もオレ様は美しい・・・」 鏡を見つめ、オレは思わずつぶやいた。 見れば見る程、オレは自分で自分の姿に見惚れてしまう。 日下部 統真、24歳。 自慢じゃないが、オレほど完璧に近い男は、そうそう居ないだろう。 日下部ホールディングスの代表取締役の一人息子にして、この若さでバリバリと仕事をこなし、部下を何人も従える管理職。頭脳明晰で将来を約束された、エリートアマングエリートだ。 加えて、見ろ、この均整のとれた身体を。 見事な逆三角形を描く、上半身。 引き締まったウエスト。 程良い筋肉のついた、上腕二頭筋。 割れた腹筋と、シャープな線を描く顎のライン。 太い首の上に乗っているのは、涼しげな目元と、煌めく黒い瞳の印象的な顔。 オレは、ボクサーパンツ一丁で、外へ出たい衝動に駆られた。 この身体を、見せびらかしたい。 しかし、この、野性味のある、例えて言えばライオンキングのようなオレが、そんな破廉恥なマネをする訳にはいかない。 そう。 イイ男たるもの、寡黙でなければならない。 眉は、やや中央に寄せられ、瞳は伏せられている。 軽く握った拳を顎に当て、深い思考に沈んでいるかのように、表情は憂いを帯びている。 おや? これはどこかで見た事があるぞ。 そうか。 あれだ、ロダンの"考える人"だ。 やはり、オレは芸術品のような造作なのだな。 神は何故、オレのような完璧な人間をお作りになったのだろう。 オレは罪深い。美し過ぎて、罪深い。 おっと、オレは無神論者だった。 そんなオレにも、一人だけ、信じる女がいる。 神坂花澄、ってんだ。知ってっか? 何、知らない?知らねぇってんなら仕方ない、教えてやる。 そこら辺の女と一緒にすんじゃねぇぞ。 勝気で気が強えぇが、根は優しくて、無欲で曲がった事が嫌いで情にもろい所もある、可愛らしい最高の女なんだ。 訂正する。 オレは、誰彼かまわずこの美しい肉体を、見せびらかしたりしない。 全てを神に愛されてるとしか思えねぇオレだが、神坂花澄、アイツだけは、それを認めようとしない。 本当言うと、おれはアイツだけに認められれば、他はどうでもいいってのに、だ。 今日こそ。 今日こそ、オレの美しさを、アイツに認めさせてやる。 何たって、今日はオレのバースデイだからな。 昔は、お袋がオレの為にとか称して、お偉いさんを呼んでパーティーを邸で開いていたもんだが、大人になった今、わざわざそんな面倒くさいパーティーなんか開かねぇ。 盆も正月も、クリスマスもイースターも旧正月も、ビジネスにくれてやるが、今日は特別だ。 招待客は、神坂花澄のみ。 もうすぐ、邸のインターフォンが鳴るはずだ。 さぁ来い、神坂。 神坂はオレに、きっとささやかな、でも心のこもったプレゼントを持って来るハズだ。 そのプレゼントのお返しは、麗しい肉体を持った、このオレってワケだ。 ピンポーーン 玄関のチャイムが、オレの部屋のインターフォンにも、聞こえた。 来た! 神坂が来たら、この部屋に通すように、言ってある。 おれはシャ◯ルのオードトワレを、身体に一振りすると、今か今かと、待った。 コンコン。 やがて、遠慮がちに、部屋をノックする音が聞こえた。 「入れ。」 オレは、澄まして答えた。 カチャ。 細くドアが開き、神坂がヒョコッと首だけ、ドアから顔を出した。 オレと目が合うと、次に、上半身裸のオレの上半身(少し混乱してきた)を見た。 すると、カアァァァァッ!と彼女の顔がみるみる赤くなり、バタン!と再び、ドアが閉じた。 「おい、待て!」 まだ部屋に入ってもねぇじゃねぇか! オレは慌てて部屋を飛び出すと、神坂を追いかけた。 何て逃げ足の速いヤツなんだ! 廊下を曲がったが、ヤツの姿は見えない。 ーーいや待て。 オレはそうっと忍び足で、国宝級の壺が乗せてある台の下を覗いた。 いた! 壺を乗せた台の下に、潜り込んでやがった。 おそらく数千万はすると思われる壺がさっきグラっと揺れた気がしたが、この際それはどうでもいい。 オレは額に青筋が浮かぶのを自分で意識しながら、彼女に声をかけた。 「テメェ、そんな所で何してやがんだ。」 違う。オレは神坂花澄に、こんな言葉を言いたいんじゃ、ない。 すると、台の下から、か細い声が返ってきた。 「…あなたこそ、上半身裸で、何してるのよ。恥ずかしいじゃない!乾布摩擦でもしてたの?」 は?カンプマサツって何だ?貿易摩擦みたいな経済用語か? オレがしばし、考えていると、何かがパサっと肩に触れた。 神坂のコートだった。 「それ、貸してあげる。寒そうだから、早く羽織って。」 ふわ。 神坂のコートからは、なんとも言えないフローラルな、でもかすかな刺激臭もミックスされたような甘い香りが漂って来て、オレは思わず鼻をヒクつかせた。 やべぇ、ヘンな趣味に目覚めてしまいそうだ。 何とかオレは衝動を抑えると、小さすぎるそのコートを肩にかけ、 「ホラ、かけたぞ。部屋に戻るから、そこから出てこい。」 と声をかけた。 神坂はやっと、台の下から這い出てきて、オレの前に立った。 (中編へつづく) 〈嗚呼、うるわしの御曹〜とある勘違い御曹司の片想い〜〉 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 何でもない日記念コメディです⭐︎ 3話で完結します。
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