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〈嗚呼、うるわしの御曹司〉〜とある勘違い御曹司の恋〜 後編
突然、アームレスリングをする。と言われた悠理と神坂は、目をぱちくりさせていた。
「なんで脱がないといけないのさ?」
「どうしていきなりアームレスリングなの?!」
悠理と神坂の声が、重なった。
オレは、悠理にはにらみをきかせ、神坂には流し目を送りながら、答えてやった。
「ユーリ、わざわざ時間を割いてまで、男友達のバースデーを祝いに駆けつけるほど、お前も暇じゃねぇだろ。なのに、神坂に誘われて、お前は来た。なぜ来たのか?その答えは一つだろ。お前は、オレと神坂を二人っきりにさせたくなかったからだ。つまり、お前には、自分が神坂とどうにかなりたいっていう、下心があるのさ。
これはまさに、ユーリからの俺に対する、挑戦だろ。だからオレは、受けて立つ。…と言っても、今さら殴り合いのケンカって歳でもないから、手っ取り早く、アームレスリングだ。
それから『なぜ脱ぐのか?』ククッ、決まってんだろ。神坂にオレ達の真剣さを、見せるためさ。
いいか、神坂、よく見てろよ。勝負が終わったら、オレとユーリのどちらを選ぶのか、決めてもらうからな。
わかったか?さぁ、わかったならユーリ、さっさと準備しろ!」
ユーリを急かしながら、オレは自分も手早く準備した。
言っとくが、オレはやるとなったら、徹底的にやる。
即席と言えど、出来るだけ本物の試合に近い形でやりたい。
そこで早速内線をかけ、邸のお手伝いさん達に指示し、必要な物品を持って来てもらった。
ほどなくして、必要な品物が運び込まれた。
邸内に設置されているジムから運び込ませた専用のアームレスリング台と椅子、バスタオルとビン入りのミネラルウォーター、品物は以上だ。
オレは腕を回してウォーミングアップをしながら、神坂と悠理に、声をかけた。
「神坂、お前は審判をやれ。始まりの合図はゴー、どちらかが手の甲を台につけたら、ストップ!だ。・・・おい、ユーリ!そこで欠伸してねぇで、さっさと位置につけ!」
振り返ると、悠理は全然気乗りしなさそうな様子で、ふわわ、と欠伸してやがった。
だが、ヤツのそんなポーズに騙されるオレじゃねぇ。
ユーリは絶対に、やる。
そう確信するオレの考えを裏付けるように、彼はおもむろに席を立った。
「もう、仕方ないな。花澄ちゃんの事になると、すぐに血相変えるんだから。アームレスリングなんて汗くさいの、俺の趣味じゃないけど、トーマのバースデイだからね。付き合ってあげるよ。」
悠理は髪をかき上げると、着ていたシャツを一息に脱ぎ、ベッドに放った。
その仕草は、男のオレから見ても色っぽく、神坂を見ると、完全にどぎまぎしている。
クソッ。負けられねぇ。
ユーリと神坂にとっては遊びかもしれねぇが、オレは本気だ。
「勝負は3回だ。じゃ、始めるぞ。」
ユーリとオレは台の両側に座り、手を組み合わせた。
「行くわよ・・・ゴー!」
グググググッ!!!
ユーリはいつも物憂げな態度をとっていてひ弱な感じがするが、それはあくまでもポーズに過ぎない。
シャツを脱いだヤツの腕は意外に逞しく、無駄な贅肉の無い腹も引き締まっている。
ハァ・・・ハァ・・・
二人の呼吸が、次第に荒くなってきた。
懸命に力を込めるが、なかなか勝負がつかない。
オレは渾身の力を込めて、ユーリの腕を押し返した。
「ストップ!」
神坂の声が響き、やっと勝負がついた。
やった!
ギリギリのところだったが、オレの腕は、何とかユーリの腕を、押し倒すことが出来た。
ふふん、どうだ、オレの実力は。
続いて場所を入れ替え、第二戦。
今度も、僅差でオレがユーリの腕を倒した。
第三戦。
さすがにユーリも悔しいのか、前の二回よりも、力がこもっている。
だが、ここまできて負けるワケにはいかない!
オレは、ここが正念場とばかりに、ググッと腕に力をこめた。
汗が噴き出てきて、こめかみからアゴに伝った。
ユーリも苦しげに呻き、汗が額に浮かんでいる。
よし!今だ!
ほんの一瞬の隙をつき、オレは一気に腕に力を込めた。
「ストーーップ!!」
気がつくと、オレの腕は、悠理の腕に覆い被さるように、ねじ伏せていた。
「ハァハァハァ・・・もう、野獣にはやっぱり敵わないよ。」
悔しそうなユーリのつぶやきが聞こえたが、このオレと勝負してここまで持ちこたえるあたり、こいつも常人じゃない。
並の奴らなら、1秒でノックアウトしている所だ。
オレは得意満面で、向き直った。
「どうだ。見たか神坂?さぁ、約束通り、オレとユーリのどちらを選ぶのか、決めてもら・・・・・。」
言いかけて、言葉が宙に浮いてしまった。
・・・・・い、いねぇ!
神坂の姿は、すでにアームレスリングの台のそばに、無かった。
どこだ?
見回すと、彼女は部屋の隅で、何かゴソゴソしていた。
「おい。」
声をかけると、神坂は何かの包みを手に、こちらを振り返った。
そしてニッコリ笑うと、包みを差し出した。
「さすが、統真くんはやっぱり強いね!見直しちゃった。遅くなったけど、お誕生日おめでとう。これ、バースデープレゼント。」
差し出された包みを、オレが受け取ろうとすると、神坂のやつ、いきなりバリバリと、包みを開け始めた。
ふつうプレゼントを、渡す前に自分で開ける奴がいるか?
オレが呆然としている間に、神坂は中身を自分で取り出し、「じゃん!」と言いながら、広げて見せた。
それは、手編みのセーターだった。
オレンジに近い明るい茶色に、オフホワイトと焦げ茶の太いボーダー柄が一本、入っている。
「あなた、野獣みたいだから、ライオン色ね。」
そう言いながら、気がつくと頭からすっぽり、その手編みのセーターを着せられていた。
「良かった、サイズもぴったり!」
そう言ってニコニコと嬉しそうに笑う彼女に、オレはすっかり毒気を抜かれてしまった。
・・・あったけぇ。
素肌に直接着ているが、上質な毛糸を使っているのか、チクチクする事もなく、セーターはオレをほっこり温めてくれた。
だが。
いけね、汗をたっぷりかいていた!
慌てて、一旦脱ごうと、オレは顔を上げた。
そして見た。
神坂はなんと、包みをもう一つ取り出し、それもバリバリと開けると、中身を、今度はユーリに着せかけていた。
もう一つの包みの中身は、オレのと色違いのセーター。
渋めの緑に、同じくオフホワイトと焦げ茶の、太めのボーダー柄が入っている。
「悠理くんはまったりした、抹茶ミルクラテ色ね。」
なんて言ってやがる。
「ありがとう。大切にするよ。」
悠理のヤツ、鼻の下を伸ばしてお礼を言ってやがる。
ムカムカムカ。
神坂の手編みのセーターを着ている悠理を見ると、無性に腹が立った。
何で、ヤツの分もあるんだ?
オレのバースデーだぞ!
額に青筋をたてているオレを知ってか知らずか、二人を見比べると、神坂は言った。
「うん、こうして見ると、統真君と悠理くんでおそろの、双子コーデしてるみたいだね!」
オレと悠理が、おそろ?
オレと悠理が、双子コーデ?
ピキ。
「ありえねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
こうして、完全に毒気を抜かれたオレは、今日も神坂に完敗した。
神坂花澄、覚えてろ。
次こそは、オマエをオレに、骨抜きのメロメロにしてやるからな!!
暖かいセーターに、彼女のぬくもりを感じながら、オレは密かに、心に誓ったのだった。
お・わ・り♡
〈嗚呼、うるわしの御曹司 〉〜とある御曹司の恋〜 後編
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何でもない日記念コメディでした。お付き合いありがとうございました。
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