本編

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『だから戻るなって!』  ふと、俺は振り返る。出かけるために家を出たところだった。だれか呼んだのか。ドアを見ながら鞄の中身を確認する。なんか忘れ物したのか。鞄を開いた瞬間、すぐに気がついた。鍵がない、ということは呼んだのは母か。今も僅かだがドアの奥から声がする。そんなに呼ぶなら、出てきてくれればいいのに。渋々家の方へ戻り、ドアを開けた。 「ただいま、鍵忘れ」  玄関に入ったつもりだった。だが、そこは一面真っ白な空間だった。振り返ったが、すでにドアもなくなっている。 「やっぱり来ちまったか」  その声に振り返ると、空間の中央に俺と同じような男が胡座をかいて座っていた。近寄ってみると、その男は少しやつれているように見える。 「ここは一体何なんだ?」 「まぁ、それはいいじゃないか。座って、世間話でもしようって」  話をそらそうとするにやけ面に苛立った。俺はこれから出かけなきゃなんないのに。 「今はそれどころじゃないんだ。俺の質問に答えてくれ」  語気を強めて問いかける。だが、男は言いたくないとばかりに口をつぐみ、そっぽを向いた。その動きが余計に腹立たせる。 「早く言え。ここは何なんだ?」  怒鳴り散らすように言うと、男は分かった分かった、と溜息をついた。 「とは言ってもおれも説明できることは少ないんだけどな」  そう言って男は正面を指差す。そこには一台のモニターがあった。モニターを見ると、そこには道路や家、行き交う人がやや見下ろす形で映っている。まるで監視カメラの映像のようだった。 「これがなんだっていうんだ」 「まあ、見ててくれよ」  男に言われ、渋々モニターを眺めていた。モニターの映像は1分も経たないうちに切り替わっていく。細かいところは違うが、基本的に見下ろしながら前にある道路や家を映していた。こんな映像見てどうしろっていうんだ。苛立ちから自分の顔が歪む。すると、男が肩を叩いた。 「実はこのモニター、秘密があるんだよ」
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