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男は口の前に両手で筒を作る。そして、映像が切り替わると、大声で犬の鳴き真似をした。モニター以外にないこの空間で鳴き声は無駄に響く。
「何してるんだ、やめろ」
思わず男をモニターから離そうとすると、今度は笑い始めた。
「ビビるなよ。おれじゃなくて、そっちを見ろ」
流れる映像を見ると、庭にいた犬が鳴き真似に反応するように吠えている。男がもう一度鳴き真似をすると、犬が辺りを走りながら吠えた。
「どうやらおれたちの声が聞こえるみたいなんだ。やってみろよ」
男は立ち上がり、モニターの前から離れる。俺が正面に座ると、映像が切り替わり今度は小学生が何人も通る場所が映った。下校途中だろうか。始めに手前に映っている女の子へ声をかけた。
「おーい」
しかし、反応はなく友だちらしき女の子とずっと話をしている。聞こえてないのか。少し音量を上げ呼びかけてみた。一瞬、目線が動いたがこちらへの反応かは分からない。ついに俺は半ば叫ぶように声をかける。
「おーい、聞こえないのか!?」
すると、女の子は振り返った。俺を探しているのかキョロキョロと見回す。友だちに話しかけられると、彼女は首を振り一緒に歩み始めた。大声で呼ばないと反応はなさそうだが、これは面白い。映像が切り替わる度に無意識にターゲットを探してしまう。
「こんなのよく見つけたな」
「前にいた奴が教えてくれたんだ」
男が呟くように言った。俺と男以外にも人がいたのか。
「その人はどこにいるんだ」
「消えた」
淡々と放たれた言葉に心臓を掴まれる。振り返ると男は寝そべって上を見つめていた。
「消えたってどうして」
「さぁ。でも、おれも同じように消えるんじゃないか」
男はたわいもない話をするように言う。だが、俺には重く受け止めるしかできない。前の人も消え、この男も消えるとしたら次は・・・・・・。
「何か方法はないのか。消えなくてもいい方法は」
「ないな。どう頑張ってもモニターに映った人は入ってきちまうし、そいつに説明することになる。前の奴は殴って吐かせたって自慢してたっけ」
男も乾いた笑いが響く。モニターに映った人間が入ってくるということは、俺はさっきまでモニター越しにこの男に見られ、声をかけられていたのか。ふと、モニターの映像を確認する。俺は呼ばれたと思って、ドアを開けたらここに入ってしまった。ということは、それを阻止すればいいんじゃないか。
「入ってきそうな奴に呼びかければいいんだ。お前も手伝えって」
再び振り返ったときには男はいなかった。
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