本編

3/4
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
寝そべっていた跡も乾いた声もなくなったかわりに、自分の心音が妙に大きく聞こえる。 「おい、嘘だろ。どこ行きやがった」  感情任せに吐き出された言葉が響く。その響いたあとの静寂に耐えきれず、意味のない言葉を叫び続けた。  やがて、声が枯れ、喉のつまりから咳き込んだ。深呼吸をしているうちに我に返る。消えた男を探している場合じゃない。それよりも新しく人を入れないようにしないと。 モニターに目を向けると、映像が切り替わり家のドア周辺が映っていた。そのドアの目の前には男が立っており鞄を漁っている。この一連の動作に覚えがあった。あれは少し前の俺だ。そうすると次にする行動は・・・・・・。 「戻ってくるな。そのまま出かけろ」  俺はその男に呼びかける。しかし、男は止まることなく家へ戻りドアを開けた。 「なんだ、ここは?」  案の定、後ろから声がして振り向くと先ほどまでモニターに映っていた男が立っている。 「おい、お前。ここ一体なんなのか、説明しろ」  男が問いかけてくる。俺と同じだな、こんな言い方しなかったが。 「それが俺もよく知らないんだ」  その一言だけ残し、モニターを見続ける。説明しなければ消えることはないはずだ。自分も来たばかりを装っているつもりだった。すると、男に肩を叩かれる。視線を向けようとしたそのとき、左頬に拳が入った。俺は勢いのままに倒れ込む。男は胸ぐらを掴み、再び構えた。 「そんなわけないだろ。早く言え!」  ほんの数十分前の俺のように焦っているが分かる、殴ってないけど。左頬がじわじわと痛み、鉄の味がする。男を見てかえって冷静になっていく自分がいた。しかし、男はためらいなくもう一発食らわせる。 「いい加減にしろ。オレはこんな場所にいる場合じゃないんだよ」  男が怒鳴りつけてきた。このまま殴られるぐらいなら言った方がマシだ。 「そこにモニターがあるだろ。それに声をかけると映っている人間や動物が反応する。さっきまでお前も映っていた」  指差しながら説明すると、男は突き飛ばすように手を離す。力が入らず倒れると、意識がぼんやりとし始めた。殴られたからなのか消える前兆なのかも分からない。 「あとは、何かないのか」 「そうだな・・・・・・説明したら消えていくらしい・・・・・・俺も」  真っ白い空間を見ながら、そのまま眠るように意識を手放した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!