第1話 待機殺人

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第1話 待機殺人

 まさか、まさかこんな日が来ようとは!  スマホが鳴ったのはコンビニ弁当をぶら下げてようやく帰宅し、熱気と格闘しながら部屋の窓を開けた時だった。  かかってきた相手に萎えながら、スマホをそのまま窓の外へ投げ捨てたくなったが、自分の仕事まで捨てる気にもなれず電話を受けたのだった。  拷問のような暑さでじっとりと汗ばんだ体を早くシャワーで洗い流したかったのに、それもままならず、弁当を冷蔵庫へ押し込んで再び家を飛び出した。  まぁ、そんなことは日常的すぎてたいしたことはない。  ようやくあのお方と仕事ができるのだ。  緊張でさらに脇汗かいて蒸れ蒸れで、どこかでこっそりと制汗剤をシューッとスプレーしたいぐらいだけど仕方ない。  刑事たるもの、泥臭く、汗臭く、しかし、(いさぎよ)く。  どこで聞き知ったのか忘れたが、それがあこがれの刑事の格言とあれば、匂いなど気にしてちゃいけない。  事件現場のぼろアパートを見上げた。  いや、まだ事件とは確定できない案件だ。  だが、人が死んでいるのだ。  浮かれている場合ではないだろう。  両頬をピシャリとたたき、気合を入れる。  部屋の入り口に立っている警官に警察手帳を見せ、住人が死んでいたという一室へと足を踏み入れた。
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