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Step.04 母なる「ガイア」
「これは“接続体――『ガイア』”です」
「接続体……どうなってるんだ?」
「元気に動いてるでしょ? これらの臓器は皆、IPS細胞から作ったものです。それらを全部繋げたんです」
血管など細かい組織と臓器が器用に繋げられている。この研究者は外科手術までこなせるのか。そのことを尋ねると
「闇医者に遠隔手術で繋げてもらいました」
そう言った。
「安心してください。たっぷり報酬を支払ったので、外部に情報が漏れることはないでしょう」
オーナーは顔をしかめた。外部に漏れるなど、そんなことがあってたまるか!? 大金を次ぎ込んだこのプロジェクトが全部台無しになる可能性がある。
「勝手なことをされては困る! そいつは本当に信頼できる医者なのか?」
「心配ですか? 希望があれば消しますが」
「いや……まずは様子を見よう」
オーナーは絶句した。この男は人の命を奪うことをなんの躊躇もなくできるというのか? 研究者セツの冷淡な発言に彼は恐怖を感じた。赤やピンク色のグロテスクな塊を嗚咽を堪えて、直視しないようにしながらオーナーは問う。
「何故こんなものを?」
「良い子供を産むための“母体”を作るためです」
「何を言っている。私は父親同士の子供を作る研究を依頼したんだぞ? それが母体だと? ふざけるな――!?」
「どうか落ち着いてください、オーナー。これは母体と言っても完全体ではありません。子供を作り、産み落とすための器でしかありません。周りの臓器はそれを機能させるための部品のようなものです」
「狂っている……」
オーナーは吐き気を催して青ざめ、口元に手を当てながら後退した。否定的な目で脈動する臓器や他器官で構成された“接続体”を尻目に捕らえながら、しきりに頭を振る。
研究者――セツは誇らしげに語った。
「見てください、臓器だけではありません。この筋肉も骨も全部再生した“部品”です。
俺に造れないものはない……!」
野心に歪んだ顔で研究者は続けた。
「これに電気ショックを与えれば自力で出産も……」
「もうやめろ! これ以上何も作るな!?」
ついにオーナーは叫んだ。この“狂った研究者”に実験の強制終了を言い渡すが、逆上した研究者が学会で発表すると言い出す。
「馬鹿か? そんなことをしたらどうなるかわかっているのか!?」
「捕まるとでも?」
「それだけじゃない。この『EDEN』が存続できなくなってしまうかもしれない」
「それならご安心を。あなたの名前は一切出しません。あなたはこの件に関しては部外者ということにしておきます」
「どこでどうやって研究したかどう説明する?」
「拷問されても言いませんよ。墓場まで持っていきます」
「簡単に言うな」と呆れて額に手を当てるオーナー。
「オーナー、一つお願いがあります」
「なんだ?」
「仮にもし僕が捕まった時は、僕たちの息子『カイン』と『アベル』をよろしくお願いします」
そう言い残し、研究者は部屋を出て行く。
「待て!」
オーナーの制止も聞かず、研究者は白衣をなびかせながら通路の奥に消えていく。
「っ!」
その背中にオーナーは悪態を吐き、頭を抱えて呻いた。
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