正解と正当

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俺は中学二年生の石宮誠だ。俺の選択は間違っているのかもしれない。 新学期が始まったと感じれば、終わるのは異常なほど早かった。勉強ではなかなか上位を取れず、駅伝部での成績は常に部内10位だった。練習は鬼のようにキツいものだった。が、その練習にもいつしか体が慣れていった。 夏休みという、塾と部活漬けの毎日を送った後は、二学期の始まりとなった。やっと二学期が始まる。駅伝部全体がこの学期を待ち望んでいた。俺らの高校は駅伝の常連校だ。常に上位をとり、ここ近年は4位より下に落ちたことはない。俺は、そんな先輩たちが積み上げてきた伝統を守りたかった。地区駅伝大会は10月にある。俺は意地でもその大会に出たかった。いや、本心は先輩たちと走りたかった。 うちの学校の主将は三年生の宮崎先輩だ。足は早くない。タイムも微妙なところである。しかし俺は彼が好きだ。どんなに苦しい練習メニューでも、誰よりも大きな声を出してみんなを励ますんだ。「頑張れ」、「まだまだいけるぞー」って。そんな宮崎先輩と俺は走りたかった。 でも今の俺じゃ、走れない。駅伝は6人が走り、後は応援という形でレースを見守るしかない。俺は走りたかった。そんな俺は、タイムをあげようと努力をした。徐々に近づく10月に向けて練習は厳しくなり、量も増えていった。俺はそれを最初の方はこなしていくだけだったが、このままじゃ間に合わないと悟った。練習メニューをこなした後。きつくて死にそうな練習の後。俺は自主練をした。800メートルの二本は軽そうに見えて、練習の疲れがある中では鬼と化した。しかし、その自主練を行ったことで、俺はついに大会前日に宮崎先輩と肩を並べるタイムになった。 悪夢は大会当日におきたのた。先生が生徒を集めて行う大会四十分前のミーティングだ。実は前日にメンバーは発表された。 エースの森川先輩、準エースの野口先輩、ラストスパートの鬼である比山先輩、坂道での追い上げが光る東條先輩、最高加速が部内一位の大式先輩、そして主将の宮崎先輩。       残念ながら補欠には入れたものの選手の6人には入れなかった。 悔しかったが、補欠に入れることもあり、心の中ではやり切った感があった。先輩と肩を並べることができただけでも貴重だったのだ。何より、俺にには「来年」がある。 「選手の交代をする」 ミーティング初めに監督が口にした。いつもは静かなミーティングにみんながざわざわする。それを気にせず監督は、さらに口を開いた。 「宮崎に変わって、石宮。」 、、、は?みんなそんな顔だった。俺も意味がなかなか理解できなかった。 「ここ最近伸びがいい石宮を使う。」 監督は教科書を読み上げるように淡々と言っていった。 「どうしてですか?」「あいつキャプテンですよ」 行き交う三年生の言葉は 「異論は認めん。これは、命令だ」 この一言で静まり返った。 三年生は口を開けたまま立ち、受け入れきれない様子だった。 「俺、少し風浴びてくるわ」 そう言って宮崎先輩は、少し笑顔で少し遠くの方にいってしまった。 俺は見てしまった。宮崎先輩の代わりとして出るための準備として体を動かしていたとき、物陰で泣いてる宮崎先輩を。今まで、決して弱いところを見せずに、チームのために笑顔で元気だった先輩。そんな先輩の涙を俺は見てしまった。 選ばれた以上、選手として学校の誇りを胸に、王者のプライドを胸に闘う姿勢で望まなくてはならない。夢の大舞台。そこに俺はいる。でも、一番ともに走りたかった主将の姿はない。    俺の夢である「大会に出れた」という部分は正解なのかもしれない。    しかし、「今の状況」が俺には正当には思えなかった。                       俺は、先輩の三年間を取り上げてしまったのだった。
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