親友“ジャミラ”

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親友“ジャミラ”

彼は特に表情を崩すこともなく淡々と私に語っていた。普段の冗談ぽい話であれば静止して揶揄することもできたであろうが、私にはそんな勇気もなくどこまでも真摯な矛盾と対峙せざるを得なかった。 それは十年来の親友「ジャミラ」の恋愛話であった。 * 店内にはホルモンが焼ける香ばしい匂いや煙草の匂いが充満し、人々の笑い声、食器のぶつかる音がこだましている。パチパチと炭が爆ぜ、景気の良い肉の焼ける音が食欲を掻き立てる。 目の前には自身の恋愛話を話し終えて満足そうな表情を浮かべたジャミラが、目の前の七輪の上に乗ったホルモンが焼けるのを今か今かと見つめている。ジャミラも私もおでこに目を閉じたくなるような七輪の熱を感じていた。 私がこのような状況になったのには様々な紆余曲折があり、私の半生、そして「ジャミラ」の半生を遡って仔細に説明していかなければならないのである。
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