ありふれた話

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 出会いを求めてセッティングされた飲み会に同僚の春香と参加した。 相手も2人。こちらも2人。 私と男性側の冬木さんがちょっとした知り合いで開催された会である。  「そうー。私、お料理好きでぇ、毎日お弁当なんですぅ」 春香はくねくねした動きで秋山さんに迫る。 あなたのランチ、今日カップラーメンでしたよね。 お湯入れて待ちの3分の間に顔面の美容体操やってたの、私見たよ。 心の中で突っ込む。  「そうなんですか?料理得意な女性って良いですよね」 意外にも好感触の秋山さん。 私は冬木さんと当たり障りのない会話をしながらお酒を飲む。 ああ。本当はホッケの開きとか食べたいけど。 洋風の小洒落たメニューが売りの店なので、メニューの大半はカタカナだ。  「そうなんですよ。結構なんでも一生懸命になっちゃうって言うか。掃除とかも休みの日はまっちゃうと結構楽しいですよね。埃を退治しようって燃えちゃって」 家庭的な女アピールに余念がない春香。 秋山さんは笑って 「俺、掃除苦手なんです。得意な人、羨ましいなあ」 とパスをだす。  ここで見逃す春香ではない。 「ええー?じゃあ、手伝っても良いですか?あ、全然変な意味じゃなくってぇ」 はい来ました。まあ、この流れに持っていくための下準備だったもんね。 望み通りの展開。得意のパターンだもんね。  今夜の主役はこの2人。 いつも春香と私が一緒にいたら、主役は春香。 キラキラ輝く、スポットライトの似合う彼女には到底太刀打ち出来ない。  私と冬木さんはいわゆる『じゃない方』。 主役の邪魔をしてはいけない。 私はメニューをじっと眺めて好みに合いそうなおつまみを探す。  「掃除だけじゃなくて、一生懸命なのは結構恋愛的にもそうなんです。一途なんですよ。こう見えて」 上目遣いで秋山さんにアピールする春香。 いや、ちょっと露骨すぎない? 流石に秋山さんも引くかと思い、ちらりと覗くと満更でもない顔。  「へえ、良いですね。一途な女性」 意外と乗り気なんですね。 心配して損した。 まあ、春香は私の手を借りる事なく秋山さんを落とすんだろうけど。  私はアヒージョを頼むかどうか悩んでいた。 油、跳ねるかな。 冬木さんが「チーズフォンデュとか、食べます?」と聞いてきた。 あんまり勝手に食べ物を頼むと春香の小食アピールの邪魔になるかなと思って遠慮していたので、私は大いに喜び「はい!是非!」と答えて冬木さんに笑われた。 食いしん坊だと思われたに違いない。  春香は咳払いして、私をトイレに誘ってきた。 作戦会議だな。しぶしぶ席を立つ。 チーズフォンデュが来る前に戻れますように。
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