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「僕、いつもこんなんやけど?」
「だから目立つと言ってるんだ。知人に会ったら面倒だ」
さっきからすれ違う人がもれなく振り返る。
官庁が並び立つこの街で和装の男は大層珍しい上に、その顔がまた端正で、艶々と光を弾く黒髪は肩の先まで伸びている。
一体どんな素性の人間かと、この街を闊歩するスーツ姿の男女からは興味深げな視線が飛ぶ。
「ええやんか。幼馴染みやて言えば」
するりと肩に手が置かれた。爪の先まで手入れが行き届いている。日本舞踊の師範を生業とする男はあくまで優雅に微笑んだ。
「幼馴染みには違いないやろ? まあちょっと親しすぎるかも知れんけど?」
「やめろ、頬を撫でるな。明日には妙な噂が立つ」
それでなくても目立つ容姿をしているのに自覚がないのか。いや、自覚なんかあるに決まっている。これは俺への嫌がらせだ。
ずっと一緒におると誓ったのに、東京へ逃げ出して来た俺への。
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