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「本当に何しに来たんだ?」
「顔が見たくて。会いに来たらあかんかった?」
そんなふうに子供みたいなにっこり笑顔で言われると、後ろめたさがある分、俺の返事は弱気なものになる。
「そうじゃないけど。お前だって忙しいだろうに」
まっすぐに見つめてくる黒い瞳から視線をそらして無機質なビル群を歩く。
すぐに逃げ腰になる俺を追うのはいつもこいつだ。
中三のとき最初に声をかけたのも、キスもその先もすべてこいつが仕掛けてきた。押され過ぎると逃げたくなる俺をよく知っている絶妙な力加減で。
「ホンマに会いたかったら時間は作るよ。僕が追わんとお前はあかんやろ?」
そうだとは言えず黙り込む俺に、優しい口調で誘いかける。
「ほな噂にならんとこに行こ?」
優雅な仕草でタクシーを止めて、艶めいた黒い目で微笑んだ。
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