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コンビニを出ると、雪が降っていた。
雨と氷の中間のような、都会特有の水っぽい雪は、積もる気配は微塵もなく、地面に叩きつけられては溶けていく。
頬がひきつるほどの寒さだった。耳をしっかりと覆うように、フードを被り直す。黒いパーカーに、雪のシミが点々と滲んだ。
自宅への道のりを歩きながら、レジ袋から、くしゃっとひしゃげたパッケージを取り出した。袋越しでも、中身の冷たさに手のひらが痺れてくる。思いきって、びり、と袋を引き裂いた。
表面が真っ白に凍りついた、紫色の棒つきアイス。迷う前に、大きく口を開ける。かぶりつく。が、歯が折れそうなほど固い。唇に張り付くアイスを、無理やり口の中に押し込み、奥歯で噛み砕くと、じわ、とあずきの甘さが滲み出した。
あぁ、これがあの子の、あずきさんの好きなアイスなのだ。そう思うと、無性に胸が苦しくなった。
一心不乱にアイスに噛みつき、咀嚼し、飲み込む。凍えながら、ガタガタと震えながら、同じ動作をひたすら繰り返す。
美味しいのかどうかは、分からなかった。あまりの冷たさに、ほとんど味は感じられず、そのことが滑稽で、むやみに笑いが込み上げてくる。はは、と思わず声が漏れる。通りすがりの人たちが、そんな氷の様子を怪訝そうに見ている。
アイスは、ただ甘かった。それが、氷は嬉しかった。だから、決めた。
人の命を奪うことに、ためらいはない。
そういう風に育てられたし、そのやり方でしか、生きる方法を見つけられない。これまでも、これからも、この生き方から逃れられない。
僕はだから、その方法で、あずきさんを守る。
うちの会社を、潰す。僕ならできる。やってみせる。
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