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夏休みが明けて―――。
今日は久しぶりの学校だわ。業とオンラインゲームとかしたりして高嶺の花モードが久しぶり過ぎる。ボロが出ないようにしなくては。
「おい。瀬尾さんが来たぞ」
「やっぱりちょうど十分前登校だな」
「やっぱり高嶺の花だな。可愛いし綺麗だ」
声駄々洩れなんですけど。全部私に聞こえてるんですけど。微笑を崩さずにいるのすごく辛いんですけど。でもそれができちゃってる私ってもしかしてチート?
「瀬尾さん!」
後から声をかけられる。この声は同じ学級委員の男の娘ね。すごく萌えるから嫌いではない子。
「何ですか、目黒君」
「先生が学級委員に連絡が有るらしいよ。だからこのまま職員室に行かない?」
「わかりました」
大丈夫ね。今のところボロは出ていないわ。私ったら完璧じゃない。あの後、業とめっちゃ趣味が合うことが発覚し、(腐は隠した)いろいろなゲームでフレンド交換した。業は『【月の戦乙女】と全部のゲームでフレンド交換しただなんて友達に自慢したらめっちゃうらやましがられるよ!ありがとう!』とか喜んでいた。別れの土産にはなったかしら。
まあ、オンラインゲームほとんど全部にもちろん、ヲタクである私、セルカがいて、さらにすべてのゲームで上位ランカーであるから、私はどのゲームでも二つ名的なやつが【月の戦乙女】になる。しかも自分でつけていないからそれで呼ばれるのがすごい恥ずかしい。
業には私だってことはもちろん、元カノだってことも黙ってもらうように約束した。
「先生。おはようございます」
「おー、来てくれたか瀬尾。付き合おうぜ」
「職員室内で堂々と、さらに教員と生徒と言う関係性でよくそんなこと言えますよね。セクハラで訴えますよ」
「わお、いつも通り辛辣な高嶺の遥香ちゃん」
「貴方だけです。普段の私はこうではありません。それより早く用事を。目黒君を使わせて用事がこれだけだったら本当に許しませんから」
こいつは小田。先生なんてつけるほどの奴ではない。こいつの前ではどうしても高嶺の花モードの私がSな高嶺の花になってしまう。ふざけんな。まじでやってやろうか。
ちなみに私と小田のやり取りは職員室名物だったりする。
「冗談だって~!そう言えば目黒もサンキューな、こいつを呼んできてくれて。要件なんだが……まずはこれを見てもらった方が早いかもな」
ノリノリで私の身体を軽く叩こうとするのでひょいとよけてやると行き場を失ったそれは虚しく空を切る。それにノータッチで行く精神もこいつの馬鹿さを表しているようでうざい。
それより渡された資料だ。内容は、文化祭について。
「今日、どうせ始業式の後暇だろ。だからそれを話し合ってもらいたいんだ」
「これは文化祭実行委員の仕事では?」
「……本当はそうなんだが、今年の文化祭実行委員、停学だの、退学など多かっただろ?しかも挙句の果てに他校と喧嘩、さらに来場者数の賭けをしたんだ。その賭けは取り消しにしたが、秘密裏にやられていると聞く。そのことを瀬尾の母ちゃんに校長が聞いたんだ。そしたら私の娘ならどうにかできると思うので任せてください。あいにく今は忙しすぎて。と言われたそうな。だから今年の文化祭は特例で学級委員が見ることになった」
ふざけんな文実。私、忙しいんですけど。格闘ゲームのイベント大会に優勝者と戦ってください!と言われたもんで、練習しないといけないんだ。本当は練習とか要らないからRPGゲームのストーリーを進めるんだけど。練習は建前です。まあ、隠してるから建前なんていらないんだけど。
「……わかりました。一応成功できるように組みますが、期待はしないでください。失礼します」
私は目黒君を置いて職員室を出る。やば。ちょっと外で待とう。ついでに書類でも見とこうか。お母さんが絶対に押し付けたよね。私に。面倒だからって大したことないこの案件絶対に丸投げしたよね。
えっと、まず、各クラスでやりたいものを集計。その次に被らないように調整。教室を振り分け、予算の振り分け、公演のタイムスケジュール管理……やること多くない?各クラス二人の学級委員だけでしろって無理があるわ。合計で各学年四クラスだから……しかも、動けるのは一、二学年の生徒だけ。三年生の生徒は受験とかで深くは委員会に関われないし……十六人しか動けないのね……。
「……失礼しました……。うわぁ⁉せ、瀬尾さん⁉待っててくれたの⁉」
「……ええ。歩きながら話し合おうと思いまして。迷惑でしたか?」
「そんなことないよ!や、やっぱり、話し合わないとねー。あははは」
笑顔が堅いぞー、少年。それより……。
「資料、増えてません?」
私は目黒君を見降ろしてみる。その手には【文化祭 資料】と書かれたファイルが。
「瀬尾さんが先に行っちゃったから、先生がこれを僕に渡してきて」
「あ、すみません。私としたことが。少し持ちますよ」
「ありがとう」
私は目黒君からファイルを半分ほど受け取り、そのまま廊下を歩く。
「十六人で文化祭が出来ると思いますか?」
「んー、どうだろ。でも、瀬尾さんが仕切るなら大丈夫じゃないかな」
何その信頼。私そんなに仕事できないと思う。過度の期待にはゲーム外で答えられないよ、私。
「私はそこまで優秀じゃありませんが。でも、形だけのまとめ役くらいはしますよ。一応委員長ですし」
「それで十分だと思うよ」
いや。無理だから。十二クラスをいくら優秀な私でも、十六人じゃまとめられる気しないわ。
あ、でも、ゲームのパーティを作るように考えれば簡単かもしれないわ。それぞれの特徴を生かして配置……。うん。いける。
「会計は会計くんに任せて、そこは生徒会と一緒に会計を手伝ってもらいましょう。生徒会の仕事に予算関係があるでしょうし。と言うか、今の時期に一からスタートって無理があると思うんですよね。だから部活動は一週間以内に申告制にした方がいいでしょうね。クラスは今日中に決めてもらいましょう。何が何でも。始業式の後にパッとこれらを連絡して……。PR担当は目黒君を代表にして二年の男子に任せるのはどうでしょう?こういうのは男子の方が面白くなりますから。タイムスケジュール管理は一年生に優秀な男子がいたと思うのでその子と男子一人と女子二人を使って……、教室分担は学校を確実に把握しているであろう二年の女子で、備品の貸し出しを残りの一年生に任せ、委員長、一年生の副委員長はそれらのまとめでどうでしょう?」
「え、あ、いいと思うよ?副委員長の僕は賛成。時間がないから話し合えないだろうし、ここだけで決めて全体に瀬尾さんが決めました、って言えば混乱も起きないと思う」
「じゃあ、そうしましょう。教室にこれらを置いたら先生に空き教室を一つ借りてそこを仮文化祭実行委員会の部屋にしましょう。本格的に動くのはそれからですね」
いい感じに分けられたかも。真面目ちゃんばっかりじゃないこの学校の風習を生かして、PR動画とかは簡単にできるだろうし、パンフレットは急いで編集委員会に依頼して、クラスの出し物が決まってから一週間で仕上げられるかもしれない。
小田が私達に求めるクリア条件は例の他校より来場者数を多くして、こちらの学校に損害を出さないこと。そして私がその後にその他校に行ってそちらの学校の損害をなしにすること。最後に、楽しい文化祭にすること。
私たちの学年の文化祭実行委員がやらかしたせいで先輩の文化祭がつまらないものになるのはだめだ。楽しい文化祭にすることは絶対条件であり、最初の条件をクリアするための鍵となる。
そして、来場者数を増やすのは私の隠し特性使えばいい。私にはゲームという最大の武器があるのよ。そこで当日にあそこの学校の文化祭がゲーマーに最高にいいらしいよ、とでも言えばいい。そしたら【月の戦乙女】のお墨付き、と言うゲーマーに最大の魅了が付く。
そのためには、確実に私のクラスをビデオゲームにしなくてはならない。そして私がコンピューター役を担う。それでクリアできるかもしれない。
「ということで、私達のクラスはビデオゲームにしたいと思いますが、反対意見はありますか」
もちろん、私は自分がヲタクであることを言っていない。射的とか人集まりませんし、祭りもありきたりすぎません?だからいっそのことゲーム作っちゃいましょうよ、プログラミング得意な人多いし、イラスト描ける人もいますし。と資料を教室においてすぐに説明した。
始業式の後とか面倒だもん。始業式の後は出来る限り、文化祭関連の根回しをしたいし。
「あ、あの……コンピューターと言うか敵役って誰がするんですか?難易度に分けるって言ってますけど。本当のゲーマーが来たら絶対クリア不可能難易度と言うのは無理なんじゃ……」
「……【月の戦乙女】様を雇おうぜ?俺らのクラスそのままだったら予算使わないんだろ?」
「……はい。予算は学校のパソコンを使用して、効果音もフリー素材、もしくは学校にあるCD、そして自ら作ればいいのですから予算はまったく使いませんね。……そして、【月の戦乙女】様、とは誰でしょう?」
知ってます。それ、私だもの。でも、雇う発想には私はならなかったけど、そっちの方がヲタクなのバレないから嬉しい。そうすれば私が当日に休めばばれないものね。疲労の風邪で休みましたって言えばいいだけだもの。
「すべてのゲームのトップに君臨する女性だよ!ハチャメチャに強いんだ!噂では運営ともつながっているらしくって!」
「この学校の少しの予算で来てくれるのそんなすごい人。てか女性のゲーマーっていわゆる、ただのヲタクってことでしょ……変人っぽそう……」
変人って言うな!いや、私は変人だけども!ゆずよりは普通だと思うんだよね!
「そこんとこは大丈夫だ!女神のように慈悲深いから少しのお金でも暇なら来てくれるらしい!」
「税金関係は大丈夫なの?」
「そこは私がどうにかしますよ。ひとまず、その案でいいでしょうか?」
うん。自分のことだからね
「いいんじゃね?」
「考える時間が短くて良かったわー」
意外にいいのね。でもこれってさ……。
「じゃあ、監修、瀬尾さんでー」
押し付けすぎよね……。私の負担大きくない……?自分で言ったことなんだけど……。
「じゃあ、今日、デス&クラフトで【月の戦乙女】様に会えたら聞いてみるな!一応これでも、古参の二つ名持ちなんだぜ俺!」
おおっと。これって今日絶対にログインしないといけない奴じゃないですかー。でも、二つ名持ちって中々な課金者では?業も運営に認められた課金プレイヤーだけど、こいつも中々やるわね。
どれだけすごいか説明してあげるわ。まず、あのゲームの中は八つに分類される。
神級ランカー、デス&クラフターが一人。
最上位ランカー、クラフターが二人。
上位ランカー、デスターが五人。
準上位ランカー、二つ名持ちが百人。
そして中位、初級、CP、チーターなどの違反者の下位ランカーだ。
普通は中位なんだけど、何万といるプレイヤーの中で二つ名持ちにいるのだから中々なやつよ。そして二つ名持ちくらいなら私に話しかけても文句言われないから大丈夫でしょう。しかも古参ならなおさら。
「ではよろしくお願いします。みなさん、始業式に行きましょう」
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