イケメン女子の仮面

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イケメン女子の仮面

 俺はリュ・ラングレフ・アロス・グランド・クリス・アロウ・ランボスティア・リュシンル・フロスターレ・リアン・アクアリーシュ・ガブリエル・ファイナル・ゼウス。  魂だけをこの身に移し、見えない悪と対峙し続ける選ばれし者だ。  だというのに。 「柚子葉様!今日もご機嫌麗しゅうございますね!」  こんな下手くそなお嬢様語を毎日のように聞く羽目になるとは。この瀬尾柚子葉という身体に魂を移したのがまずかったか……ッ⁉(君の厨二病でそこまでやばい感じに成りきれるのすごいね By作者) 「……俺には関わるな、と言ったはずだが」 「でも……柚子葉様とお話してみたいな、と思いまして」  毎日毎日違うメス共がこの高潔なる俺に話しかけてくるのはどうかと思う。この身の兄もこのリュ・ファイナル・ゼウス(略称)なる身のことはばれたらまずいから黙れと言っているからよりやりずらい。もちろん、この身の家族以外の存在に俺の真の姿のことがバレてしまえば、世界そのものを巻き込む大戦争が勃発してしまうからな。  それが怒らないように俺は家の自室で毎日のように見えざる悪が弱まるように魔法陣を作り、魔法を発動させている。俺でないと命をも代償にしてしまうほどの魔法だ。ならば俺がやるしかないだろう。 「俺と話したいとはなんだ」 「え、いや~。柚子葉様とお話しすることに意味がありまして、正直何を話そうというのは私としたことが……考えておりませんでした」 「そうか。確か、お前はふぁんくらぶという物のリーダーの瑠香(るか)とか言ったな」 「ええ。そうです。ですから柚子葉様とお話してもいいのですよ?」 「そんなの聞いたこともないな。俺は関わるな、と言ったはず。それより凛音は何処だ」  正直、メスの相手をするのは面倒くさい。リュ・ゼウス(略称)たるもの、慈悲を与えておかねばならん。関係ない者の安全を確保せねば、リュウス(略称)という、見えざる悪に対する正義が悪になり果ててしまうからな。  他に生き残っていたはずの仲間であるリュ・リンスム・アラウスト・チュセル・アボストロフィア・フレウスタ・ガオス・ベルリンスカオス・アンヘル・ラスト・エウロペはこの世界から全く気配がせぬ。今回の魂移動で失敗し、亡くなってしまったのだろう。まだ、見えざる悪は生きているというのに。  最後の仲間はこの世界の凛音。あいつ自身には自覚がないようだが、魂そのものが俺を求めている。俺が近くに居なければあいつは魔法を発動できないからな。あの、リュ・フレストアルア・エンダウトル・タリス・ロウカ・フス・フェイリス・ガストリントスラウマ・カオリス・バロウ・ランボルギヌ・ミカエル・フィナーレ・へファイストスが魂移動した凛音は。  しかし、今回の魂移動は失敗に終わったらしい。どうにもリュ・フィナーレ・へファイストス(略称)以外に魂を感じられないからな。つまり、次回に魂移動は自覚がないリュ・へファイストス(略称)と俺しかできないようだ。だが、リュトス(略称)はもう凛音としてしか活動ができないほどに魂の生気が失われている。これでは俺一人で見えざる悪を対応しなくてはならないが、俺が次も魂移動ができるようには思えん。これがラストチャンスだ。もし失敗したら見えざる悪はどんどん巨大化し、この世界は破壊されてしまうだろう。やはり、俺が真性開放をしなくてはならないのだろうか。  そのために、俺はなるべく凛音の魂に傷をつけないようにリュトス(略称)の魂を目覚めさせるべく、柚子葉として会話しながらテレパシーでリュトス(略称)に呼びかけている。本当はずっとそれをやっていたいのだが、どうにもうまくいかず、毎回のようにふぁんくらぶ、という奴に邪魔されるのだ。  まあ、俺とリュトスが話しているときに会話に入ってこないのは賢明な判断だがな。 「渡里さんなら先程、下校の準備をしていましたわよ。ですが……お急ぎだったご様子で……」 「そうか。情報ありがとう。これにて俺は失礼する」  急いでいるとは何事だ。毎日俺と一緒に下校しているではないか。魂干渉の時間が短くなれば短くなるほど、お前はその凛音、という魂に飲み込まれてしまうのだぞ。 「あ!柚子葉様!」  今度は誰だ。俺は急いでいるのだぞ。わざわざ、俺のブレザーを掴んで引き留めるほどでもなかろうに。 「こ、これ!受け取ってください!」 「えっと、これはチョコか?」 「そ、そうです!お返事いただけると嬉しいです!」 「返事?まあ、俺は急いでいるんだ。無理やり引き留めたのは感心しないが……、チョコありがとう」 「~~~ッ!……お、お急ぎのところすみませんでした!」 「ああ。別にいい」  俺はメスの一人からチョコを受け取り、そのまま、凛音がいるであろう場所を探す。急いで帰るのなら、教室から下駄箱へ直行ルートだろう。魔法がこの場で使えるのならば一瞬で凛音のところなど行けるというのに。わざわざバレぬよう過ごすのも厄介だな。  そんなこんなで教室を出て下駄箱まで急いでいるとそこには何やら俺の下駄箱に包装された何かを入れる凛音の姿があった。 「何をしている」 「うわっ!ちょ、柚子葉様⁉」  俺は自分の下駄箱から先程入れられた物体をひょいと抜き取る。開けてみると、その中に入っていたのはハート型のチョコだった。 「そ、それ、私からです。こんなことなら直接渡してしまえばよかったですね」 「……そうなのか。ありがとう。しかし今日はやたらにチョコをもらう日だな」  いつも何かしらもらうのだが、この時期だけはひたすらにメスはチョコしか俺に渡さない。頭でも腐ってしまったか。ならば俺が直してやろうか? 「今日はバレンタインデーですから」 「バレンタインデー?」 「簡単に説明すると女子が想い人の男子にチョコをあげる日です。一か月後のホワイトデーにもらった人に男子がお礼を返すのですよ。何年も生きていてまさか柚子葉様が知らないとは」 「もらうものはそのままだからな。わざわざめ……女子に返す必要性はないからな。渡すだけで満足しているようだから」 「それでも好かれるって流石、柚子葉様!」  それで、凛音は俺にこれをくれたと。つまり凛音の想い人は俺ということなのか?そうだとしたら、リュトスとしての記憶が戻ってきている……? 「あ、それは友チョコ、という物です。女子が女子にあげるチョコをそう言うのですよ。ですが、柚子葉様がもらったほとんどのチョコは本命チョコ、想い人にあげるチョコだと思います」 「そうか。なら、らぶれたーという物とほとんど変わらないものか」 「そうですね。そして、私が下駄箱にチョコを入れようとして発見したチョコがこれです。こんなに貰うなんて流石ですよね」  そういって自らのスクバを開けた凛音はそれを俺に見せる。中には大量に包装されたチョコが入っていた。そのほとんどがハート型だ。 「……」 「どうしました?」 「……やる」 「……?」 「それ全部凛音にやる」 「ふぇっ⁉」 「友チョコ、という奴だ。俺はいらないから凛音にやる」  凛音はうっ、と言うように胸を押さえそのまま倒れかける。リュトスがいる凛音の身体をこの俺が傷つけるわけにはいかない。戦力が減ってしまうからな。だから俺は凛音を支えたのだが……。それもだめだったらしい。失神してしまった。  今日も凛音を運んで帰るのか。その方が俺の力を使いやすいから大丈夫だが。この身は女の身。女を持ち上げるのにも辛いが、俺は身体強化の魔法が使える。だから、俺は軽々凛音を持ち上げることが可能なのだ。(普通に運動神経がよく、普通の女子より筋肉がついております。By作者) 「……どの時代もリュトスは弱いものだな」  そんなことを呟きながら俺は凛音を抱え(お姫様抱っこ)、帰路についた。  これがまたキャーキャー言われる原因になることを知らずに。
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