敏腕弁護士の仮面

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敏腕弁護士の仮面

 僕の名前は瀬尾カイン。僕は今日も法廷に立たなくてはいけない。  なぜかって?  仕事だからだ。  本当にこの仕事は天職だと思っているよ。弁護士なんだけどね。だって、罵倒というか責められまくるんだもの!その代わり責め返さなきゃいけないんだけど。それでも快感という物は得られるものでね!依頼者の方には申し訳ないけども僕は正直負ける可能性が高い依頼しか受けてないんだ。  その方が責められるのが正論で且つ鋭いからね!まあ、ドМ弁護士なので。  でも、勝手に無罪になっていたりするんだよね。ママの真似をすればいつの間にか勝ってるなんてしょっちゅう。  なんでママの真似をするのかって?  そりゃあもう、ママに罵倒されてるのを想像しながら法廷に立つと最高に快感になるからだよ!快感すぎて最高に気持ちいい!しかも興奮する!  だから法廷にはいつもママに来てもらうようにするんだ。妄想しやすいようにね。  このことが世間様にばれたら全力で家族から罵倒を浴びせられて最高に快感でぞくぞくして想像するだけでも興奮するんだけど、それはダメなんだって。  そうしたら罵倒するんじゃなくて褒めちぎってあげるって言われちゃったから。  それじゃ、ダメなんだよ!気持ちよくない!ぬめっとした感触が僕の身体にまとわりつくからね! 「瀬尾先生。私の依頼、どうですか?勝てそうですか?」 「あ、はい。大丈夫だと思いますよ。こちらも料金をいただいていることですし、全力で晴海様の無罪を勝ち取ってみせます」  目の前にいるのは今回の事件の依頼者、晴海太一さんだ。殺人の容疑をかけられてる。ただ、本人は無罪を主張していて、僕は無罪を勝ち取らなければならない。かなり証拠が出そろっているんで、もう負けを僕は確信している。  そうなると……こっちが証拠出しても違うって言われまくるんだよなぁ……。ぐへへ……。 「あ、あの……?瀬尾先生……?ぼーっとしてらっしゃいますが、大丈夫でしょうか?」 「あ、えっと、大丈夫です。これからば……頑張らないといけないな、と思いまして。それより確認したいのですがいいでしょうか?」 「ええ、いいですよ」  一瞬、罵倒されるんですよ!ってきらきらの笑顔で言ってしまいそうになった……。でも、ママの僕を褒める顔を想像してしまい、すぐに普通になったとは絶対に言えない。 「まず、犯行予想時刻に何をしてらっしゃいましたか?」 「被害者と会っていました」 「え。死んでいるのに?」  思わず言ってしまったが許してほしい。だって犯行予想時刻に被害者と会うって何その矛盾。え、絶対勝てないでしょ。絶対に。  つまりそれは……僕が罵倒されるってことジャン……。いいねぇ……。 「そうなんですよ!でもその時間、私は彼女に何もしていないんです!」 「では、あなたは犯行予想時刻は工作されたものだと言うのですか?」 「そうです!あの時間、彼女が生きていたのは私が証明できるんです!」 「……ほう?」 「まず、私の携帯の通話履歴に犯行予想時刻である17時40分に彼女と電話しています。そのまま、彼女と合流したのです。だから私には犯行は不可能なはずです」  なんかめんどくさいことになって来たぞ……。でも、それで証明できるって思ってるって馬鹿だな、この人……。 「そうですか。ではあなたは何処で彼女と合流したのですか?」 「かざなみ公園です」 「犯行現場じゃないですか」 「そうです」  何でそんな真摯な目をしていられるんですか。僕にそんな目を向けないでください。気持ちが悪いじゃないですか。 「だーかーら!私はしていないんですよ!真犯人に心当たりがあるんですもん!」 「ほう?誰ですか?」 「彼女の本当の彼氏です!俺は彼女の浮気相手ですから」 「そうですか」  いや、なんでなんで。ポーカーフェイス保つのが辛いんですが!なんでそんな自信満々なのかな⁉⁉さすがの僕でも馬鹿にしたくなるよ⁉⁉  でも、まあ、確認してみなくちゃ始まらないよね。これ以上話すのはめんどくさいからね。僕はこのまま帰宅することにする。 「そうですか。私はこれで失礼しますね。一応、あなたの発言をもとに調べてみます。では」 「待ってください!本当に!本当に!私は彼女を殺していないのですから!」  後ろからそんな叫び声が聞こえる。いやぁ……ドМの人間としては気持ち悪いんでやめてもらいたいんですけど……。 「では、また」 「あんた、本当に敏腕弁護士なのかよ!話をこれしか聞かないなんて馬鹿じゃねえの⁉⁉俺の話をちょっとは聞けよ!完璧に証明されてるんだからよ!」  わお。帰るだけでこんなに罵倒されるの?すごっく嬉しい!うへ。  そのまま、僕は面会所を出る。笑顔が消えなかったが、まあ、ばれないでしょう!だって嬉しいんだもの!まさかこんなに罵倒されるなんてね! 「なんなのあの人……最後めっちゃ笑顔だった……。私のことを馬鹿にしないで下さいと言わんばかりの笑みだったぞ……」
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