敏腕プロデューサーの仮面

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「着いたよ。ここが生徒会専用棟、通称生徒会室」  それは室のレベルじゃないと思うけど、突っ込まないでおく。この学園の金のかけ方は可笑しいもの。それでいて破産しないのは流石の実力か。 「そう。ここには誰がいるのかしら?」 「理事長、生徒会長、風紀委員長」 「それは豪勢なこと。わざわざ私を呼ぶためにこの学園のトップが集合ってわけね」 「それを迎えに行く俺の身にもなってよ……」 「どうせ、身内だし、庶務だから行ってこいって言われたのでしょう?」 「そんなとこ」 「可哀想な我が息子」 「馬鹿にしてるよね」 「あら、良く気づいたわね」 「母さんの息子なもので」  いつもより控えめだが、私の仕事中は少しSくらい。でなきゃプロデュースなんてやっていけないわ。相手を押し負かすくらいで行かないと。 「ようこそ。我がアルファ学園へ。急な連絡ですみませんでしたね、瀬尾……ここでは叶恵さんの方がいいかな」 「息子もいることですし、叶恵でお願いします」 「はい。叶恵さん。よく来てくださいました。」 「あらそこはよくいらしてくださいました。ではなくて?」  その言葉に理事長は少し笑顔を引き攣らせる。あら、大切なお顔が台無しですわよー?  そんな変な空気の中、葵が部屋の中にあったホワイトボードをくるりと回転させる。そこには葵の書いた文字が大量に埋め尽くされていた。 「これを母さんはどう見る?」  たった一言。葵は私にそう言った。  そのホワイトボードには簡潔に言うと次のような内容が書かれていた。 【・資金不足にもかかわらずアルファ学園系列の新たな女子校を設立する計画書が発見された ・この学園を経営する分には資金は十分に余っているが、他の学園を経営する上で資金が不足している ・新たな女子校を作る必要性 ・男女間の交流を作る ・資金不足は入学金や授業料などで補える見込み ・設営費はどこから? ・設営費すら足りていない ・アルファ学園をより充実すべきでは? ・今年度設立計画だが、アルファ学園の知名度をより上げてからの方が資金が今より多く集まるのでは? ・瀬尾プロデューサーからの助言を募る】  なるほどね。学園側としては新たな女子校を作ることで資金を集めようとしているが、そのための資金が足りていないと。  この学園は生徒会長と風紀委員長が権限をあまりにも多く持っているから生徒会にその書類が行ったが、両方から反発の意見が出たと。 「馬鹿らしい」 「なんと?」 (読まなくていいっす 葵&作者より) 「これはあくまで個人的な意見なので聞かなくてもいいですが、私は生徒側の意見が正しいかと思います。今のアルファ学園は資金が余っていますが、学園を設立できるほどではないのでしょう?借金して失敗したらどうなるのでしょう?それこそ、今までのアルファ学園の維持してきた格が下落します。私は資金を集めてから作る、と言う意見にも反対です。保護者から意見が来ているようですが、これは私情なしに反対です。なぜなら男子校トップに君臨しているアルファ学園ですが、女子校まで手を出したらどっちつかずになると思います。理由としては女子のデータがないからです。教員にしても一度学園側が指導してからという素晴らしい方針があるのですから、女子のデータが無いとその指導の意味がなくなります。あくまで男子に対しての教師の指導ですから。それで女子のデータを集めるのに集中したら、男子校が疎かになるでしょう。男子のデータは集めきったと勘違いする可能性が有るからです。人は常に変化します。男子と女子、両方のデータを集める気力がありますか?この学園に。男子だけでも手一杯なはずです。生徒主体であるとそう言うことが起こりえます。よって、私は新たな学園の設立には反対です」  一気に話してしまったが、まあいい。これくらい言わないと駄目だ。自分の意思を捻じ曲げるなど、心が大事と言うが、正直に言おう。理屈が大事なのだ。しかもこういう人種はそれをより重宝する。  時々理屈攻めして逆切れされることもあるけれど。それは社員がだいたい理解しているのでその後の話を聞くと社長が行方不明になっていたりなんてしばしば。 「なるほど。教育の効率化の視点からしてもダメと言うわけですか」 「新しく教員を募るにしてもこの学園は男子校の情報のみ。女子校で戦おうとするのは無理があります」 「では生徒会長の意見も聞こうか」  私がいるのにわざわざ生徒を話させるのねぇ……。生徒主体の鏡か。 「俺は女子校なんて作るだけ無駄だと思う。俺らの学校と親交を持つ?そんなの無理だね。メス豚ら(あいつら)は恋愛しか能がねぇ。わざわざ、資金を出してまで面倒見る必要なんぞない。他の関係ねぇ学園がやっとけって話よ」 「生徒会長。相手は客だ。敬語くらい使え」 「俺には関係ないな、風紀委員長様?」  おー。これは生徒会長×風紀委員長か。中々に萌えるわね。そう思って私は葵の方を見る。葵も同じことを思ったようで、私の方を向いていた。  葵。久しぶりにこの学園に来たけど、中々いい、カプがいるようね。尊いし、萌えるわ。 「生徒会長、風紀委員長。お話はそこまででお願いします。(もっと話しやがれください)」 「ええ。あなた達の意見はわかりました。要するに女子生徒など系列の学校でもいてほしくないのですね。(ああ。女子生徒と関わりなくないってことは男と居たいってことね。いいわ。もっと意見を理事長に向けていいのよ)」 「ああ、そういうことだ。女など俺には必要ねぇ。よくわかるプロデューサーだな」 「まあ、一応、雇われの身ですから。出来ることは精一杯しますわ。それにこれでもプロデュース業一筋で生きてきたので(BLのことに関しては中学生から極めてきたので、王道の生徒会長の考えていることなど私にはすぐにわかるわよ)」 「それより、さっきから親子でずっと見つめ合っているようですが、何か?」  なんと。風紀委員長は私たち親子の目だけでの会話を見抜いていらっしゃって?さすがに貴腐人であることはこの学園では隠さなくては。葵にも止められているからしょうがないわ。これからの萌え補給を断たれても困るし。 「……いえ。何でもありません。それより、生徒会長の意見もこうですし、せめて作るなら系列の男子校、さらにアルファ学園より偏差値を落とした通学制にするべきです。そちらの方が女子校より経費が削減されるでしょう」 「確かにそうですね、瀬尾プロデューサー。私も正直書類の中に系列女子校しかも全寮制ときたのでぞっとしていたのです。学校を作るのにはあまり賛成ではありませんが、それでなら私は妥協できます」 「俺もまだそれなら賛成だ」  うんうん。男子ならいいってことね。素晴らしいわ。同性愛と言うのはとても純潔な感情よ。性別と言う障害を越えて愛し合うのだからとても純潔よね。 「そうですか。では私もその方で検討させていただきます。学園を新たに作るのは多くの保護者、さらに外部の方からもお願いされているので」 「利益が出るとは私でも断言できません。ですがどうしても学園を設立したいというのなら、案を一つこちらから示します。それをどうするかはあなた方の責任ですが、完成案を見せていただきたいです。資金が足りないのですからそこで私が最後にさらに経費の削減をしてみせます」 「それはありがたいです。ですが、こちらも譲れない点がありますので、またその時にお越しいただくのですが、よろしいでしょうか」  理事長は美しい笑みで言う。なるほどね。あくまで私の意見に全て従いませんよ、たかが保護者ですから、みたいに思っているわね。たいした度胸じゃない。私に食って掛かろうだなんて。 「そうですね。教育理念などもあるでしょうし。ですが、お越しいただくのですが、よろしいでしょうか、ではありません。来てくださりますね?です。私は他の企業、学校などとも契約をしています。よろしいでしょうか、など私に選択肢を与えていては経費削減など書類上で終わるもの。それだけでは私はこの学校に来ませんよ?」  私のその言葉にその場にいた葵以外の人が硬直する。葵は笑顔を浮かべて私の方を見ている。ばれないようにしろ、とでも言いたげね?でも私は、貴腐人の部分だけは絶対に隠し通せ契約しか葵とはしてないもの。大丈夫よ、契約は守っているから。 「……ああ。私に積んでいる金額の量は私の学園が一番のはずだ、などと思っていますか?より尽くしてほしければ金額と人間性で。これが私にプロデュースを依頼する上で必要なもの。金額は他の企業に上回っているところがありますし。少しは言葉巧みに私を引き留めてはどうでしょう?……ちなみに。私に色仕掛けは通じませんので、ご安心を」  ここまで言うとさすがに生徒会長は黙っていられなかったらしく、色仕掛けで私を引き留めようとしてきた。それを牽制したら、一体どう出てくれるのでしょう?より金額を私に積む?そんなこと言ったら葵の授業料より多くなりますけど大丈夫? 「葵。少しこちらに来い」 「はい。風紀委員長」  あら。策を思いついたのは風紀委員長ってわけね。まあ、先に葵が気づいていそうだけども。  少し二人で内緒話をしたら、葵がこちらへ向かってきた。息子の泣き落とし作戦宜しく、とでも言っているように思えたが、多分葵が実行するのはただ一つ。泣き落とし作戦の裏の言葉で私にある条件を突きつけるはず……。それ次第で来てやるかは決めるわ。 「母さん……。俺ね、この学校だけじゃなくて、他の学校のことも仲良くなりたいんだぁ……。だって、この学校だけじゃ、お話しするの少しだけなんだもん……。俺、新しい学校作りたい……。母さん、手伝って……?ダメ……?」  ふむふむ。新しい男子校作るのに協力してくれたら、俺は生徒会役員だし、そっちの人とも仲良くできる。王道学園だけの話じゃ飽きるだろうし、王道じゃない学校の話もしてあげるからさ。手伝ってくんね?と。  よし、のった。  でも、ここで了承してしまったら、私がちょろい人間として見られてしまうわ。それを拒否して、私が来ることにしなくては。 「あらあら。急に半泣きとは。母親に面白いことするわね、葵。でも演技臭過ぎるわ。もう少し頑張ってね。風紀委員長さんも面白い策を出したこと。実の息子の泣き落としですか。まあ、葵に演技力が伴っていなかったせいですぐ見抜けましたが」  私のそんな言葉に葵はすごくむかついたような顔をし、風紀委員長は眉をピクリと動かす。ああ。面白いわぁ……。最高ね。人の嫌がっている顔を見るのは最高に楽しいわ。ずーっと攻撃していたくなる。  でもこれで終わってしまったら面白くないわね。まあ、私がこうなるように仕立て上げたのだけど。 「ですが、そんな息子の努力(・・・・・)に免じて、今回は来てさし上げましょう。ただ、次回はないと思ってくださいね、皆さん?」  私が笑みを浮かべると生徒会室の空気が凍り付く。そう、これこれ!私の掌の上で感情が動き回っている感覚!これが最高に面白いのよね……! 「おい、クソババア。黙っておけばいい加減なことを言いやが―――」 「クソババアで結構。ただ、色仕掛けをしてこようとしたあなたも所謂クソなのでは?息子の前で引っかかる馬鹿な母親ではありませんし、何ならその手の色仕掛け、他の企業や学校で受けていないとでも?最高に滑稽ですね」 「……ッ!」 「この程度でイライラしていたらまだまだ子どもですよ?ほら御覧なさい?理事長は眉一つ動かしていないじゃないですか」  生徒会長も面白いわぁ……一番表情に出るもんだからいいのよねぇ……。普段は表情に出ないけど、馬鹿にして子供になれるように場をセッティングしてしまえば、その仮面は剥がれてしまうんだもの。  最ッ高! 「……今日はお話を聞いてくださり、ありがとうございました。今日のところはこれで終了です。後日、日時を連絡させていただきますので来てくださりますよね?」 「先客がいなければですがね。では、失礼します」  私は部屋を出ていく。最高に面白かったわ。普段はSと言われる人をいじめるこの感覚。やはり忘れられないわね。 「葵、お前の母親、毎回思うけどほんっといい性格してるよな」 「あんなめんどくさい人種は初めてだ」 「ですが、あれくらいがプロデュースをする上でちょうどいいくらいですよね。考えてみてください。あれがもしМだったら仕事になりませんけど」 「だけどよ、あれはやばいよな」 「まあ、あれが母さんの普通なので大したことありませんよ」 「まじですか」 「まじかよ。お前……」 「それ以上は言いません。では、俺も失礼しますね(まじであれ以上とは言えないし、何なら氷山の一角だけど流石にSの面出し過ぎだよ、母さん)」
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