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淑女の立ち振る舞いについては、
お父様から教わった。
食事のマナー
会釈の角度
教養、ダンスに至るまで。
お父様は、熱心に。
ひとり娘に愛をそそいだ。
——いつか “女王” になるために。
物心ついた頃からずっと、
この広いからっぽのお屋敷で。
わたしとお父様はふたりきり、
だれの眼にも触れず暮らしてきた。
ひびの走った大きな窓も、
ホコリがかった絨毯も、
荒れ放題の中庭さえも。
わたしにとっては満ち足りた、
世界のすべてだったから。
——なぜ “女王” が必要なの?
幼心にただ一度だけ、
そう聞いてみたことがある。
「種族に残る古い血が、それを求めているからだ……」
かつてこの星中を覆って、
栄華を極めた <ある王族> の。
「メリッサ。おまえはその末裔だ」
……おまえが王家を取り戻すのだ。
遠い昔を語る時、
お父様はその半分残った片方の眼に、涙を浮かべ。
こぼれるような希望の光を小さなわたしに投げかけていた。
先の戦争で羽根を失い、
もはや飛ぶことさえ叶わない、
お父様の、唯一の夢。
それが蜂人間全体の、
悲願であると信じ込み。
わたしは “女王” になるために、
巣立ちの時を待っていた。
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