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出産予定日前日、久しぶりに母にその話を聞いてみた。
母はそんなこともあったわね~といった感じで、目を細めていた。
そして、いよいよ出産予定日。
予定通り陣痛が起こった。
もうすぐだ・・・
もうすぐ、この子に会えるんだ・・・。
私の家族はもちろん、主人も主人の家族もみんなそのときを心待ちにしていた。
そして私は一人必死に陣痛に耐えていた。
痛い・・
とんでもなく痛い・・・。
治まったかと思えば、波のようにやってくる痛みに頭がおかしくなりそうだった。
覚悟はしていたが予想以上の痛みだった。
そして案の定、私の産道は開きにくくなっており母と同様、帝王切開ということになった。
ある程度予想はできていた。
しかし、怖い・・・。
気が狂いそうな痛みに耐えながら、一瞬“死”を覚悟した自分がいた。
母もこんな気持ちだったのだろうか?
こんなときでも私は自分の“死”が怖かった。
麻酔を打たれている為痛みの感覚はないが、何となく切られているというのは分かった。
そして朦朧としている意識の中、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
「おめでとうございます、3500グラムの元気な女の子ですよ。」
赤ちゃんの顔を見せられたとき、心底ホッとした。
私、赤ちゃん産めたんだ・・・。
ちゃんと産まれてきてくれて、本当に良かった。
安心した途端、全身の力がゆっくりと抜けていった。
医師や看護婦たちの慌ただしい声が聞こえたが、その声も徐々に遠のいていった。
そして意識を失った。
目を覚ますと誰もいない病室にいた。
ここは私が入院していた部屋だ・・・
しかし、妙に静かだ。
ここは病院だというのに物音ひとつしない、人ひとり居ない・・・。
何故・・・?
突如、言いようのない不安が襲ってきた。
そもそも私は娘を出産していたはずだ。
それなのに、何故普通に立っているのか・・・。
それにどこも痛くない、どうして・・・?
ここは一体どこ??
もしやこれは夢?
私は今夢を見ているのか??
だとしたら早く覚めてほしい。
何だか妙に病室内の雰囲気がリアルだ。
それなのに物音ひとつしないなんて・・・。
気持ち悪い・・。
それに何より、怖い・・・。
私死んだの?
怖い、怖い・・。
私は病室を飛び出し、宛もなく走り出していた。
夢なら早く覚めて!!
どうしてここには誰も居ないの?
怖い、怖いよ・・・・。
誰か助けて!!
いい歳をして、恥ずかし気もなく大粒の涙を溢しながら。
泣き喚いて、病院の廊下をただひたすら走っていた。
次第に病院内の景色が変わり、周りが真っ暗になった。
いままで病院にいたはずなのに!?
一体どうなっているの!?
私はパニックに陥った。
真っ暗闇にひとり、ポツンと取り残されてしまったのだ。
もう、どうしたらいいか分からない。
私はその場にしゃがみ込み、子供のようにわんわん泣いた。
まるで精神だけ幼い少女になってしまったかのように。
不安で怖くて、ただ泣き喚くことしかできなかった。
その時。
私には“声”が聞こえた。
よく耳を澄ますと、若い女性の声だった。
「・・・・・て!頑張って!!」
・・・誰・・?
聞いたこともない声だ。
母でもなければ、姉でもない。
一体誰なの・・?
「頑張って!!まだ、死んじゃダメだよ!これから楽しい思い出一杯作るんだから!」
真っ暗闇の中で、女性の声がただひたすら響いていた。
「あなた誰!?私死んだの?私の赤ちゃんは一体どうなったの?ここは一体どこなの?」
私は主の分からない声に聞いていた。
しかし、返答はなかった。
また、真っ暗闇にひとりぼっちの不安が襲ってきた。
「お願いだから答えてよ!ここはどこ!?あなたは誰なの!?」
再び同じ質問をしたが返答はない。
「私まだ死にたくない!お願い夢なら覚めて!!お願いだから私を助けてよ!!」
大きな声で叫んだ。
すると大きな光が私を照らした。
今まで真っ暗な闇の中だった空間に、大きな光が入り込む。
その光はどこかあたたかくて、懐かしい感じがした。
「その光の方へ歩いて行って。そうすればきっと・・・」
再び女性の声が聞こえた。
私は彼女の言うように、その光に向かって歩いて行った。
そして、彼女にもう一度尋ねた。
「あなた、一体だれなの?」
やはり返答はなかった。
一体誰なの?
私を呼ぶのは・・・?
あなたは一体・・・誰・・・?
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