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プロローグ
今日もいつもと同じ時間、夜の七時十五分の電車に乗り帰宅する。
見慣れた景色、見慣れた光景。
気が付けば、もう何十年間も同じことを繰り返してきた。
全てのことに慣れてしまっていた。
会社と家の往復。
今思えば楽しかった学生時代の仲間たちは今でも元気に暮らしているだろうか?
もう、二十年近く会っていない。
帰宅すれば、大仏パーマのような髪型をした中年太りのすっぴんの妻が俺を出迎える。
その妻の姿を見た途端、この家に帰って来たことを激しく後悔する。
いや、この女と結婚したこと自体に激しく後悔しているのかもしれない。
結婚を経験した男は、誰もが皆そう思っていることだろう。
俺の人生は一体何だったんだろう。
俺の名前は藍原啓二、今年で五十七歳になる、いわば中年オヤジってやつである。
そして、俺の妻の名前は藍原佳代子。俺より一つ年上の五十八歳。
俺たちの間には息子が一人いた。名前は藍原翔。今年で二十五歳になる。今はIT関係の仕事に務めていて、アパートで独り暮らしをしている。
ひとり息子が家を出て、俺たちは夫婦二人暮らしになった。
俺の両親は俺が二十八歳のときに交通事故で亡くなった。妻、佳代子の両親は佳代子の姉夫婦が面倒を見ている。
俺たち夫婦は今年で結婚して二十六年目を迎える。
めでたい、実にめでたい!!よくこんなに長い間もったものだ。
俺は佳代子と二十六年間暮らしてきて、分かったことがある。
まず、彼女を一人の女性として見れなくなったことである。今となっては、顔を見合すだけでもため息がでる。
あぁ、どうして俺の妻はあんなみっともない大仏パーマみたいな髪型をしているんだろうか?
「ほかの髪型にしてみたら?」と言えば、「この髪型のほうが楽だからいい!」と言われた。
また、「もっと違う髪型の方が若々しく見える」と言えば、「うるさい!あんなには関係ないでしょ!」と、怒られる。
女という生き物はどうしてこうも怒りっぽいのだろうか?
また、なぜ、年を取るとあんなに髪の毛を短くするのかよく分からない。
短くすると言っても限度があるだろうに、といつも思う。
毎日が退屈で窮屈だった。
家と会社の往復、休日家にいても妻と話すこともない。
会話のない家にいても窮屈なだけである。
あぁ、本当に、なんて毎日が地獄なんだろう・・・。
このまま死ぬまでこの生活が続くなんて御免だ。
でも、それが現実だ。
年を取るという事ほど残酷なことはない。
俺は湯船につかりながらそっと目を閉じた。
そして、ふと、考えてみた。
もし、あのとき違う選択をしていたら・・・。
もっと違う未来があったのだろうか?
もう、顔を見るのも懲り懲りになった妻と結婚しなければ・・・。
俺の人生もっと楽しくなったのか・・?
ふと、昔付き合っていた女たちのことが脳裏に浮かんだ。
どうして俺はあのとき、あいつらと別れて佳代子と結婚したんだろう・・?
今では顔も見るのもうんざりな佳代子が、当時の俺の中では一番いい女だと思ったから結婚したはずなのに・・・。
人生というのは不思議なものである。
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