過去

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一人目の彼女  美由紀 俺が初めて彼女ができたのは高校一年生の時だった。俺の初めての彼女になった美由紀は隣の席の女だった。 美由紀は色が白くて細見の女だった。頭がよくて、クラスでは常にトップクラスだった。俺はそんな美由紀に一目ぼれ。授業中、美由紀の横顔を隣の席から見るのが俺の毎日の楽しみだった。 そして、俺と美由紀が付き合うきっかけとなったのは、俺が数学の授業の課題をやるのを忘れたときに、美由紀がこっそり答えを見せてくれた。 そのことがきっかけで、俺と美由紀は仲良くなった。そして、俺は勇気を出して美由紀に告白した。 美由紀は照れ笑いをしながらオーケーの返事をくれた。 笑ったときにできる頬のえくぼが最高に可愛かった。 なぜだろう?高校時代の彼女のことは初めて話したきっかけや、告白したときのことまできちんと鮮明に覚えている。 きっと、最初だったから。当時十六歳の俺にとっては大好きな女の顔を毎日見れるだけで幸せだったんだ。きっと・・・。 美由紀は寒がりだった。冬になると、俺のコートのポケットに自分の手を突っ込んできた。美由紀は色白だったから、雪がとっても似合ってた。 俺は美由紀が大好きだった。もうこれ以上ほかの誰かを愛せないって位。 今思うとそんな感情どうやったら出てくるのか自分に聞きたいけど。 だけど、いつからだっただろう?この辺の記憶は曖昧なんだ。 美由紀と会話をしなくなった。気づいたら、美由紀は俺のコートのポケットに自分の手を入れなくなっていた・・。 「ごめん、もう藍原くんとは付き合えない・・。」 最後にそういわれたのは何となく覚えてる。 その日も、雪が降ってた。 美由紀は鼻を真っ赤にしてそう言ってた。 それから美由紀とは会っていない。 クラスの同級会にも美由紀は一度も参加しなかった。 噂で聞いた話によると、二十二歳のとき同じ職場の人と結婚して、三人の子供がいるらしい。 俺はそのことを初めて聞いたとき何だかとても不思議な気分になった。 二人目の彼女  真侑   真侑はいつもきまって、真っ赤な口紅を付けていた。派手な女だった。 いつも真侑の車はキツイ香水の匂いが充満していた。金遣いも荒かった。時間にもルーズで、元彼とも普通に連絡をとるような女だった。 でも、彼女は花が大好きだった。真侑の部屋に行くといつも、ベランダには色とりどりの花が鉢植えに植えられていた。 真侑が一番好きな花はパンジーだった。いつも、いつも大事に花を育てていた。俺が誕生日に買ってあげた花を、枯らさないように、毎日毎日こまめに水をやっていた。 真侑はわがままな女だった。 自分は普通にデートで遅刻してくるくせに、俺が五分でも遅刻するとずっと不機嫌だった。 でも、大好きな花を買ってやるとすぐに笑顔になった。 真っ赤な口紅をギラギラと光らせて、高いピンヒールの靴を履いて、彼女は鼻歌を歌いながらいつも俺の前を歩く。 俺はそんな彼女が好きだった。 ある日、彼女と突然連絡が取れなくなった。 何回彼女の家に電話をかけても、繋がらなかった。 一か月経っても連絡が取れなくて、彼女の家に行ったらそこには誰も住んでいなかった。 近所の人に聞いたら、どうやら彼女には相当の借金があったらしく夜逃げしたらしい。 彼女の部屋のベランダにある色とりどりの花たちは ・・・全部枯れていた・・・。 真侑は派手な女で、金遣いが荒くて、時間にルーズで・・・・。 ・・・・でも、花が大好きだった・・・。 そんな彼女が俺は好きだった。 彼女が俺の目の前から姿を消したのは、俺と彼女が付き合って半年ほど過ぎたときだった。 三人目の彼女  早苗   真侑が失踪してから、一年経ったころ、俺に新しい彼女ができた。そのころ俺は二十四歳だった。 彼女とは本格的に結婚を考えていた。 早苗は俺より三つも年下なのに、料理上手で、優しくて、とにかく気の利く女だった。 彼女はよく、鼻歌でカーペンターツの曲を口ずさんでいた。だから、俺もいつしか無意識のうちに彼女と同じ曲を口ずさむようになっていた。 今でもカーペンターツの曲を聞くと、彼女のことを思い出す。 この頃になると、付き合うきっかけとかそんなものいちいち覚えなくなった。 だから、早苗と付き合うきっかけとか、どこで出会ったとかは覚えていない。 顔もぼんやりとしかもう思い出せない。 結婚も考えていたのに。 ただ、覚えているのは彼女がよく口ずさんでいたカーペンターツの曲だけ。 それと、妙に鼻についた香水の香りを・・・・ ・・・・リアルに覚えている・・・・。 俺は早苗と二年付き合ったけど、三年目で別れた。 俺から彼女に別れを切り出した。 理由は簡単。面倒くさくなったから・・・。 早苗は気の利くいい女だった。でも、その反面束縛も激しかった。 だから、俺は別れを切り出した。 今思えば、あんな束縛かわいいものだったのかもしれない。 でも、当時の俺にはそれが重すぎたんだ。 だから、泣きじゃくる早苗に無理やり別れを切り出した。 そして、別れた・・・。 別れてから数週間後、早苗から一本の電話があった。 「今までありがとう。さようなら。」   俺と早苗が会話をしたのはその電話が最後だった。 今でも、カーペンターツの曲を聞くと、彼女の鼻につく香水の香りを思い出す。 顔はもう、ほとんどぼやけて思い出せないのに・・。 四人目の彼女  杏子   杏子と俺が付き合い始めたのは俺が二十八歳のとき、杏子が二十六歳の時だった。 杏子は美人な女だった。俺は彼女に一目ぼれした。 だから、俺から彼女に告白してオーケーを貰ったんだ。 彼女の美しい顔立ちは今でもはっきりと覚えている。 俺はそのとき正直舞い上がっていた。こんな美人と付き合えるなんて思ってもみなかったから。 杏子はもの静かで、あまり自分のことを話さない女だった。 だから、俺は気が付かなかった。 杏子が元彼と連絡を取っていたことも、俺と付き合いながらも元彼と関係を持ち続けていたことも。 もう、元彼とは別れると言っては、別れられないの繰り返しで俺は正直参っていた。 そのとき、俺の両親が交通事故で亡くなった。 俺が急いで病院に駆け付けた時にはもうすでに両親は他界していた。 そして、その後杏子とはすぐに別れた。 五人目の彼女 佳代子 佳代子と出会ったのは両親の葬式の時だった。 佳代子は俺よりひとつ上の兄貴の同僚だった。 佳代子の第一印象はパっとしない顔立ちに、ふくよかな体系、何だかイマイチ冴えない女だと思ったのは覚えている。 そのときは本当に何とも思わなかった。 まさか、この女と結婚するはめになるとは思わなかった。 両親の葬儀がわって一か月くらい経ったとき、俺が駅で電車を待っているときに、偶然佳代子と再会した。 果たしてこれが運命の出会いであったかはさだかではない。 そのあと、偶然に会ったのも何かの縁だと思い、俺は佳代子と近くの喫茶店でお茶を飲むことにした。 そのときに知ったこと。 佳代子は俺より一つ年上だということ。 彼氏はここ数年いないということ。 本人いわく、大雑把な性格のせいで男性が寄り付かないということ。 佳代子はよく笑う女だった。 そして、なんでもおいしそうに食べる女だった。 初めて彼女とお茶をしたときも、彼女は大好物だというイチゴのショートケーキをおいしそうに食べていた。 そういえば、佳代子の大好物は二十年以上経った今でも変わっていない。 俺が初めて佳代子の笑顔を見たとき思ったこと。 この人といると、自分も笑顔になれるような気がする。 そう思った。 佳代子と付き合うようになって、佳代子の笑顔が俺の一番近くにあって。 気が付けば俺も一緒に笑ってた。 俺が今使っているこの湯船を沸かしてくれたのも、俺の着替えを用意してくれているのも全部彼女だ。 俺は普段気づかないところで、たくさん彼女に支えられていた。 今も、昔も・・・。 今日はいつもより長風呂になってしまった。上せる前に早く湯船から上がろう。
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