あぶり餅

5/6
前へ
/6ページ
次へ
五、再び、あぶり餅屋 「ところで法子、美容院の方はどうなんや」 「お得意さんも付いて、何とかやって行けるようになったわ」 「そうか、それは良かったな」 「それにしても、中学を卒業した時、何か手に職を付けなあかんゆうて、美容学校へ行くのに、よお、お金を出してくれはったな」 「そら、うちは中学出て直ぐに働いたけど、やっぱり学歴が無いのには苦労したさかい」 「そやけど、買いたい物も買わんと、うちのためにきばってもろおて感謝してるわ」 「しかし、うちは結婚して家を出てしもうたけど、法子は結婚もせんと、お母さんの面倒をよう見てもろたな」 「病気にならはってからは早かったけど、最後まで気丈な人やった」 「そやろなあ、お父さんが亡くならはってからは、一人でうちらを育ててくれはったからな。人に言えん苦労をしたはったと思うわ」 「それでお姉さんとこの主人は、元気にしたはるか」 「今日の法事に、来てくれはる予定やったんやけど、急に仕事に行かなあかんようになってしもうたんや。なんせ会社を定年にならはってからは、警備の仕事をしたはるさかい、休日の呼び出しがあったみたいや」 「そうかいな、相変わらず真面目な人やな。お姉さんは、ええ人と一緒にならはった」 「そうや、あの人も高校しか出たはらへんけど、よう働いてくれはった。うちも、今は気楽にさせてもろおておりますけど、六十歳まで働いたんや」 「無事にここまでこれたんは、やっぱり、このお守りのお陰かな」  法子が、ハンドバックより西陣織の帯で作られたお守りを取り出し、両手で被って拝むように額へ当てている。そして、その手をテーブルに下して開けると、鮮やかな蓮の模様が浮き上っていた。 先ほどより、隣のテーブルに座った婦人が、二人の会話に聞き入っていた。そこで、蓮の模様が付いたお守りを横目で見ると、直ぐに自分のハンドバックを開いてお守りを取り出している。すると、二人のテーブルへとにじり寄って来た。 「お姉さん、お久しぶりです」 「えー」 法子が、思わず声を掛けて来た婦人の顔を見た。そして、そこに差し出されたお守りの模様をじっと見据えている。 「華子か」 思わず、叫ぶような声を上げた。 「そうです。先ほどよりお二人のお話を聞いていましたが、そのお守りの模様ではっきりわかりました」 「ひゃー、それにしてもどないしとったんや」 妙子は絶句しそうになりながら、華子を見つめて驚きを隠せないでいた。 「大きいお姉さんも、お元気でなによりです。やっとお目に掛かることが出来ました」  静かな奥座敷が急に騒々しくなり、何事が起きたのかと、他の客が三人の様子を窺っている。 「この近くにええ喫茶店があるさかい、そっちに行こか」 妙子は、二人に言って立ち上がった。 「お姉さん、相変わらずやな」 法子が華子を誘って姉に従っている。 喫茶店への道すがら、妙子はなぜこの時になって華子が来たのかと不思議に思っていた。 「華子、うちらがさっきの店にいたのが何でわかったんや」 「話せば長くなりますけど、お母さんの三十三回忌はお寺に問い合わせて知っていましたので、昨日の夕方に京都へ来てました。それで、今朝、お寺に行きましたけど法事が終わってました」 「そや、他の家と法事が重なってしもうて、うちらの方は早くせなあかんかったんや」 「それで、お姉さん達は今宮さんへ行くと、お寺の人に聞いたもので、きっとさっきの店に行けば会えると思いました」 「そうかいな、小さい時にあぶり餅を買おたとこを、よう覚えとったな」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加