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気づいたら、裕輝は手を伸ばして陸のピアスホールに触れていた。「くすぐってーよ」と逃げる耳を追いかけたかったけれど、拒まれるのが怖くてやめた。
「ねえ、陸」
「うん?」
「泣いていいよ」
少し震えた声で言うと、長い沈黙のあとに陸がゴクッと唾を飲んで喉を鳴らした。
「オレはべつに我慢なんてしてなーー」
誤魔化すように鼻をかいて笑おうとする陸に、裕輝は「今だって、泣いてるくせに」と続ける。
「泣いて……ねぇよ」
「じゃあ泣いてよ。今すぐに」
「おまえなんなの。オレの気持ちに命令すんなよ」
陸はイライラし始めていた。膝を伸ばし、裕輝から離れようとする。逃げる陸の腕を引っ張ると、覆いかぶさるように陸が裕輝の上に倒れこんだ。下から見る陸は怒ったような表情で裕輝を見下ろしていた。
しばらくすると、ポタリと生温かい滴が裕輝の頬に落ちてきた。
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